バレット M82 / Barrett M82 【対物自動小銃】 †
個人運用可能な対物ライフルとしてロニー・バレットが設計し、1982年にアメリカのバレット社から発売された.50口径セミオートライフル。重機関銃弾である.50BMG弾を使用し、コンクリート製の壁を障子紙の如く貫く威力を持つ。
発砲時には銃身が後座するショートリコイルで作動する。これはガスシステムを必要としないため軽量化に繋がるほか、反動を分散する効果もある。特徴的な大型マズルブレーキも反動軽減に高い効果があり、この2つにより反動は立射可能なほど軽減されている*1。しかし一方で、マズルブレーキから噴射する発射煙が射手を覆うほど大量に発生してしまい、連続発射が難しいという短所もある。また、バレルは素早く取り外して銃を2つに分解出来るようになっており、携行性も高い。使用弾薬の.50BMGはほぼ全てのNATO加盟国で使用されているM2重機関銃と同じであるため、他の狙撃銃と異なり専用の弾薬を準備する必要がなく、経済的かつ補給が容易である。
これらの携行性・汎用性を重視した設計により、一般の歩兵でも携行することで簡単に長距離・対物戦闘能力を持つことが可能となり、先進国の戦場での優位性をより確固なものとし、近代戦における「対物ライフル」というジャンル、及びその運用概念の先駆けとなった。
この功績から、M82は2005年には米軍の選ぶ「アメリカ歴史上最も偉大な10の(兵器に関する)発明」の1つに選出されている。
発売当初しばらくは本国アメリカを含め、あまりセールスは振るわなかったが、スウェーデン陸軍が1989年に危険物除去用として導入した際の実績からその有効性が知られ、各国で採用され始めた。アメリカ陸軍でもM82A1を対物/EOD(爆発物除去)を目的とした特殊狙撃銃として採用し、湾岸戦争の長距離戦においてその性能を発揮した。
狙撃銃としては動作形式の問題もあり、通常弾で3MOA、マッチ弾薬で1.5MOA程度と精度はさほど高くないものの、威力・射程は優れており、イラク戦争においては対人狙撃で最長2300mのものが記録が確認されている。これは従来の他の高精度狙撃銃をも上回る記録であり、対物ライフル、長距離狙撃銃としてのポテンシャルが窺い知れる。
しばしば「人体に対しては威力が過剰に高く、ハーグ陸戦条約に抵触するため自粛が求められている」武器とも言われるが、実際はNATO各国軍の主要重機関銃であるM2と威力は同等であり、条約に違反するものではない。ただし炸裂・焼夷能力のあるRaufossMk211弾に関しては自粛が求められているが、お構いなしに対人火器として使用されているのが現状である*2。
バリエーションとしては、他の銃火器同様ピカティニーレールなどを搭載した近代化モデルのほか、ブルパップモデルやボルトアクションモデル、榴弾モデルなど様々なモデルが製造された。(詳細は後述の下記の表で)
本体のバリエーション以外にも遠距離性能を上げるための独自規格弾「.416バレット」、計測データから自動的にスコープのダイヤルを回して狙撃を補助する弾道計算コンピュータ「BORS(Barrett Optical Ranging System)」などのユニークなオプションが存在する。
また、軍隊以外でも、航空機の窓ガラスなどの分厚い障害物ごしの狙撃や、自動車のエンジンブロック破壊のため、アメリカの警察においてSWATチームが一部本銃を採用している。
なおアメリカでは民間人でもM82を所持する事が出来るが、犯罪やテロ対策の観点から、規制すべきとの議論がある。これに対しバレット社はM82は隠し持つには不向きで、銃の重さや銃声の大きさ、装弾数の少なさから多くの人間を攻撃するのは困難であり、実際に犯罪に使用された前例も無いと反論している。
ただし実際には1990年代にイギリス・南アーマー州においてIRAによる連続狙撃事件で用いられ、多大な被害を発生させた事がある*3。規制の是非は現在でもたびたび取り沙汰されるが、アメリカではM82より強力な対空砲や高精度な狙撃銃などが合法であることもあり、今も大きな規制には至っていない*4。
余談だが、戦後の民間製品としては珍しい「製品名が開発時の西暦年に由来する」銃である*5。
各種バリエーション †
モデル | 解説 |
M82 | 初期モデル。 マズルブレーキは丸穴の比較的小型のもので、レシーバーにも放熱穴が無かった。 |
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M82A1 | マズルブレーキが一新され、現在よく知られる太い箱型のものに変更された。 |
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M82A1A | Raufoss Mk.211多目的*6弾に対応。 |
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M82A1M | ピカティニーレールの追加などがなされた近代化モデル。 |
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M82A2 | 肩乗せ式で構える特異なブルパップモデル。 安価な対ヘリ兵器として開発されたが、セールスは奮わず短期間で生産中止。 |
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M82A3(M107) | M82A1Mのマイナーチェンジモデル。アメリカ海兵隊で採用。アメリカ陸軍ではほぼ同仕様のものがM107の名称で採用されている*7。 |
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M107CQ | M107の短銃身モデル。M107を含む名称だが、軍採用モデルではなくバレット社の独自の製品名。 重機関銃を搭載していないパトロールヘリや、近距離戦での使用を想定したモデル。 |
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M107A1 | M107の改良モデル。M107を含む名称だが、軍採用モデルではなくバレット社の独自の製品名。 重量が2kg程度軽減され、新設計のQDL*8サプレッサーをマズルブレーキの上から直接装着可能とするため*9、特徴的な箱型マズルブレーキが円筒形のものに変更された。 専用サプレッサーは先端に箱型のベントを備えており、サプレッサー装着時にもマズルブレーキ機能を保持している。 バレル長は29インチと20インチ。 |
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XM109 | XM25のものと類似した25mm榴弾*10を発射するペイロードライフル。 バレット社によれば2km先の装甲目標や飛行中のUAV(無人航空機)も撃破可能とされる。 M107CQよりも更に小型。 |
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外部リンク †
・Barrett "Light Fifty" M82 ムービー