対物火器 / Anti-material weapon

 主に建築物や設備、車両、航空機などを攻撃することを目的とした火器。本項では個人携行型のものに絞って解説する。
 第一次世界大戦で歩兵が運用する小銃機関銃を受け付けない戦車が登場すると、これを撃破しうる火砲に頼れない状況でも、歩兵が個人ないし数人で運用できる対戦車火器の登場が望まれた。
 第一次大戦末期には、既存の小銃を大型化し大口径の小銃弾で戦車の装甲を貫くマウザー M1918、いわゆるタンクゲベール(対戦車小銃)が登場する。しかし、第二次世界大戦のころには、発展を遂げていく戦車の装甲に対し、20mm、37mmといった砲レベルの火器でも力不足となったことから、対戦車小銃は二線級火器となっていった。そこで、第二次大戦前後のロケットや弾頭技術の発達により、M9バズーカパンツァーファウストパンツァーシュレックといった数人、もしくは個人でも扱える成型炸薬弾式の対装甲火器へと移行していった。
 第二次大戦後は従来のロケット兵器に発展を加えた、無誘導だが比較的安価なRPG7カールグスタフと、高価な誘導装置を搭載した9M111ファゴットやM47ドラゴンなどのミサイル兵器の2系統の対物火器が進化発展を続けている。

 一方、戦車をはじめとする装甲車両の発展により第二次世界大戦以降は廃れた対戦車小銃だが、冷戦時代に大口径の重機関銃を用いた長距離狙撃が評価され、また対戦車小銃が担っていた機銃陣地などの野戦築城に対する狙撃が再評価されるようになると、対物小銃(アンチマテリアルライフル)または大口径狙撃銃(ラージキャリバー・スナイパーライフル)として同様のライフルが再び登場した。その高い威力と射程から、遠距離より爆発物や固定機関銃、非装甲車両のみならず軽装甲車両のエンジンブロックなどを破壊するのに用いられる。また通常の小銃弾に比べ遥かに重く大きなエネルギーを持つ弾体のおかげで、風や空気の影響をあまり受けずに遠くまで弾丸が届くので、長距離狙撃銃としても使用される。
 また大きなメリットとして、対装甲用の成型炸薬弾に比べ弾薬1発あたりのコストが遥かに安く、大きさや重量も小さいという点がある。このため携行弾数も多く取ることができ、他の対物火器に対して運用の容易さと柔軟性に大きな優位がある。1960年代には当時ベトナム戦争でアメリカ軍が多用したヘリコプターへ対抗する対空火器として、中国で10.5mm肩射防空槍が開発されている。いわゆる対物小銃に相当する火器で実用化には至らなかったが、携帯式地対空ミサイルが登場した後にも、こういった先進装備の調達が困難だったキューバにおいて代替手段として対物小銃であるMAMBIが開発されキューバ陸軍に配備されている。

 これとまったく逆となってしまった事例としてフォークランド戦争では、アルゼンチン軍の陣地に据えられたM2重機関銃からの射撃に対し、イギリス軍はこうした任に適切なボーイズ対戦車ライフルという対抗火器をとうの昔に退役させていたため、これらの陣地一つ一つを潰す為にはるかに高価で威力過剰な各種対戦車火器を使う事を強いられた。使用されたのはカールグスタフ M2や更に高価で重いL6ウォンバット無反動砲、ミラン対戦車ミサイルである。

 これらの点から、正規に開発製造されて配備されたものの他にも、調達手段の限られる反政府武装組織やあるいは正規軍の部隊単位でも需要に応じて重機関銃や機関砲の銃身を転用した大口径狙撃銃がしばしば製作、運用されており、武装民間車両や自爆車両、建築物の破壊や長距離狙撃に用いられている。

 なお、RPG7やパンツァーファウストIIIなどは俗に「ロケット砲」ないし「ロケットランチャー」と呼ばれることも多いが、発射に際しては無反動砲の原理を利用しており、一定距離を慣性で飛行した後に弾体の推進用ロケットモーターに点火するようになっている。この方式ではロケットの噴射を射手が浴びる危険性が無く、ロケット推進によって射程や弾頭のペイロードに余裕が持てることから、1970年代以降はロケット火器の代表的な方式の一つとなっている。
 また一方で、べトナム戦争以降の西側ロケット火器として一般的となったM72 LAWのように、弾体にロケットモーターを持つものの、発射にのみ利用し発射筒内で燃焼が終了するという、ほとんど無反動砲に近いものも存在する。

 対空用の個人火器といえば、第二次大戦末期にドイツで個人携行可能な地対空ロケット火器としてフリーガーファウストが開発されている。制空権を失い、対空砲部隊の運用すら困難となったドイツが窮余の策として生み出したものである。これは、無誘導で弾速も遅いロケット弾では積極的な撃墜は望めないことから、多連装化した曳光ロケット弾を斉射する事で敵航空機が攻撃進路に入ることを阻む防御的兵器であった。

 第二次大戦後には、先述の対戦車ミサイルと共に、個人携行可能な精密誘導地対空火器が登場した。これらは精密機器で構成された誘導装置の分だけ非常に高コストではあるが、より長射程な車載ないし艦載の対空ミサイルの最短射程を埋める防空システムの一翼を担っている。

対物/対戦車ライフル

AI AW50
AI AS50
EDMアームズ ウィンドランナー
LAR グリズリー・ビッグボア
MOM ゲパード
PGM ヘカートII
RSAF ボーイズ対戦車ライフル
USSR PTRD1941
USSR PTRS1941
ZID KSVK
ZVI ファルコン
小倉陸軍造兵廠 九七式自動砲
グストロフ・ベルケ パンツァービュクセ(PzB)
ステアー HS.50
ステアー IWS2000
ゾロターン S-18/100
ダネル NTW
バレット M82
バレット M90
パウザ P50
マウザー M1918
マクミラン TAC-50
ラティ m/39
レイ M500

無反動砲

FFV AT4 / M136
FFV カールグスタフ M2(HEAT弾はロケットアシスト式)

対戦車擲弾発射器(弾頭を無反動砲式で射出する発射筒)

HAS パンツァーファウスト
USSR RPG2

対戦車擲弾発射器(ロケット推進式の弾頭を無反動砲式で射出する発射筒)

DNAG パンツァーファウストIII
USSR RPG7

その他の対戦車擲弾発射器

UK PIAT

対戦車ロケット発射器

HAS パンツァーシュレック(RPzB)
MD SMAW
TDS M72 LAW
US M1・M9バズーカ
US M20 スーパーバズーカ
US M202 FLASH(焼夷ロケット発射器)
USSR RPG18・RPG22
USSR RPG29

対戦車ミサイル

MD M47 ドラゴン
アエロスパシアル エリクス
川崎重工 01式軽対戦車誘導弾
サーブ・ボフォース NLAW
ヒューズ TOW / BGM-71
ロッキードマーチン ジャベリン / FGM-148
ロッキードマーチン プレデター / FGM-172 SRAW

地対空ロケット発射器

HAS フリーガーファウスト

地対空ミサイル

GD FIM-92 スティンガー
USSR 9K32 ストレラ-2 / SA-7 グレイル
タレス ブローパイプ
東芝 91式携帯地対空誘導弾

ガトリングガン

GE GAU-8 アヴェンジャー
GE M61 バルカン

航空機関砲

マウザー MG151
ラインメタル MG131


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 暫く飛んでから自爆するんじゃなかったっけ?
    それは対空ミサイルか… -- 2018-05-30 (水) 21:48:08
  • 本文中にあるMAMBIって、(ttps://guns.fandom.com/wiki/Mambi-1)・(ttps://en.wikipedia.org/wiki/Mambi_AMR)・(ttps://www.reddit.com/r/ForgottenWeapons/comments/elaro6/a_cuban_soldier_using_a_mambi_antimateriel_rifle/)のことですか? 画像検索したら、出てきましたがサイズや重量を考えると一人では運用できないですよね。同じ人数で運用するのなら、対空銃架に搭載した重機関銃の方が合理的な気がしますが・・・ -- 2021-10-30 (土) 20:13:53
  • 合理的かどうかを判断するのは、実際に運用したキューバ軍なので。まあ、想定されている航空目標はヘリらしいので、 -- 2021-10-31 (日) 02:09:31
  • ホバリング中であれば十分に有用らしいです。 -- 2021-10-31 (日) 02:10:26
  • 同じ用途・目的であるはずのバレットM82A2が短命少数製造で終わったのにMAMBIは広範に配備されて製造数も多いのはなぜでしょうか? その差が分からないです。用兵者の戦術面その他等々の違いでもあったのでしょうか? -- 2022-01-15 (土) 05:51:01
  • M82A2を調達できる国の殆どはそもそも携行対空ミサイルも調達できるからM82A2で代用する必要性に乏しいし、対物ライフルとしても他の選択肢があるけど、米から制裁を受けてるキューバはそのどちらも困難で新規調達装備の大部分を国産品に限定されて、国産のMAMBIが唯一調達に制約の無い近接防空火器であり対物ライフルともなってるから。 -- 2022-01-16 (日) 02:33:11
  • 唐突で申し訳ございません。対物火器本体ではなく、弾薬についての質問になってしまいますがご教示お願いいたします。M61系以外で20mm×102弾を使用する機関砲や対物ライフルはどれくらい存在するのでしょうか? 以前検索した時にポンティアックM39機関砲・ジアットM621機関砲・Anzio 20mm対物ライフル程度しか見つかりませんでした。しかもAnzio 20mm対物ライフルは少数生産で終わったのか、ある程度生産された(発注があれば、その都度生産するのか)のか、それすら分からない状態です。前述の詮索の際にM39もM621もそれなりに生産された事は知りましたので他に20mm×102弾を採用した機関砲はあるのか、対物ライフルで他にもあるのか等々を知りたいです。少々お手間をおかけいたしますが要望いたしたく存じます。M61のページに書き込むは違うかもと思いまして、こちらに書き込みさせて頂きました。お目汚し失礼いたしました。 -- 2022-06-07 (火) 03:43:12
  • MAMBIよりかなり早く、1968年から1969年にかけて中国で対ヘリコプター用に開発されていた10.5mm肩射防空槍について追記。なお実射試験こそ行われたようですが、使用弾薬である10.5x95弾が新型重機関銃で貫通性能を満たせず要求未達となってまず弾が計画中止、12.7x108弾への設計変更も企図されたものの無理があった為に開発中止となっています。 -- 2023-12-18 (月) 00:34:48
  • 本文の構成が乱れてたので修正しました。 -- 2023-12-21 (木) 01:53:38
  • 何者かによってDNAG パンツァーファウストIIIなどの項目が削除され閲覧できない状態になっています。 -- 2023-12-22 (金) 08:50:42
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Last-modified: 2023-12-21 (木) 01:52:52 (128d)