ブルパップ / Bull-pup

 機関部を銃床のスペースに収めることで後方に下げ、銃身長を切り詰めることなく全体をコンパクトにした構造。
 従来と違い、グリップより後方にマガジンが配される独特のレイアウトが特徴である。
 その特異な外観は魅力的なもので、フィクションのなかで登場する未来銃の多くが、ブルパップスタイルでデザインされている。

 軽便さの向上のため小銃を小型化しようとする場合、カービンのように銃身を切り詰めるのが一般的である。だが銃身長を縮めた場合、大幅なパワーロスや、騒音、発砲炎の増大、集弾性や命中精度の低下など、さまざまなデメリットを覚悟しなければならない。
 そこで銃身長を維持したまま銃本体をコンパクトにすることが出来るブルパップ構造が古くから研究されてきた。機関部を銃床のスペースに収めれば、ストック長ぶんをまるまる全長からオミット出来るため、銃身長を縮めずに従来の小銃と同等の性能のままで、大幅な小型化が望めるという理屈だ。
 その歴史は20世紀初頭のボルトアクションライフルにまで遡り、一例として旧ソ連では新しい7.62mm×39弾用の歩兵銃を開発するに当たってAK47以前にブルパップ式のものを既に試作していた。

 しかし、機関部が後方にあるブルパップ構造特有の問題もある。
 特に左利きの射手の場合、空薬莢が顔面に飛んでくるか、排莢口を頬で塞いでしまうため、排莢方向をスイッチできる機構を組み込むか、右利きに矯正する必要がある。ベルギー製のP90のように弾倉を銃の上に装着して真下に排莢するものや、F2000のように空薬莢をチューブで前方に送ってから排莢するなど、工夫の施されたブルパップ銃も登場しているが、裏を返せば従来の銃ならば不要な仕掛けを施さなければならないということでもある。
 また、トリガーから機関部までが遠く長大なリンク機構を介する必要があるため構造が複雑となり、良好なトリガーフィールを設定することが難しい。弾倉の位置も問題で、射手の脇の下近くに配置されるため、再装填が従来型のライフルに比べて難しく、軽機関銃システム・ウェポンなどのドラムマガジンやベルトリンク弾薬を収めるような大型の弾倉を使用する銃種では保持が困難となる*1
 他にも銃床内部が機関部である構造上、体格や装備に合わせてパッド部を調整する機構を組み込み難い、各操作のレバーをすばやく操作しやすいようグリップハンド近くに配置するのが難しいなど、様々な難点がある。
 また、全長が短いゆえに照門と照星の間隔が短く、アイアンサイトでの照準に不安がある。光学照準器の使用が一般化した21世紀現在ではあまり問題ではないが、冷戦時代に実用化されたAUGSA80は低倍率望遠のスコープを標準装備とした。当時、光学照準器を主力歩兵銃の標準装備とするのはある意味先進的であった。
 その形状による銃の短さが災いして銃剣戦闘に向いていないという評価もある。しかしその要因とされる銃剣のリーチは銃の全長ではなく、ハンドガードを握るフォアハンドから銃剣の先端までの距離で決まるため、ブルパップである事が銃剣戦闘での不利には直結しない。また逆に従来式では携行性を向上させる為に銃身を短縮させたモデルでは構造上の問題から着剣能力を失っている場合が多くあるが、ブルパップ式では従来式の銃身短縮モデルと同程度の全長ながら着剣能力を維持している銃が多いため、むしろコンパクトな銃を携行している状態での近接戦闘を考慮する際には、着剣しての銃剣戦闘という手札を増やせるという点でブルパップ式が有利とも言える。
 なお、ブルパップ式小銃で銃剣戦闘を行った実例としては、2004年のイラクで発生した「ダニーボーイの戦い」などイギリス軍はSA80を用いて数々の銃剣戦闘を行っている。

 80年代には、フランスのFAMAS、オーストリアのAUG、イギリスのSA80などヨーロッパで多くのブルパップ突撃銃が開発されたが、黎明期故に設計が洗練されていなかったこともあり、上記のような使い勝手の悪さから大きな普及には至っていない。
 ドイツのG36のように、後発でありながらあえてブルパップ式を避けた銃*2や、中国のようにブルパップ式の95式自動歩槍と従来式の03式自動歩槍を平行配備した上で新型の191型自動歩槍では従来式を採用した国、ポーランドのMSBS Grotのようにブルパップ式と従来式の両方をバリエーションとして含んでいる例もある。

 一方、狙撃銃対物火器のような、大型の光学機器に加えて平均的な突撃銃の倍近い重量をもつ火器では、多少の扱いにくさよりも軽量小型化、あるいは同重量とサイズでより長い銃身長を取れるメリットが注目され、ブルパップ式とされているものが少なくない。ライフルではバレットXM500やKSVK擲弾発射器ではXM25などがブルパップ式レイアウトを選択している。
 また、アメリカにおいては現行法では「短銃身」のライフルの所持には認可が必要となるため、全長が短いにも関わらず銃身が長いブルパップ式ライフルは、認可なしに合法に所持可能な小型ライフルとして購入できる利点があり、一部では人気がある。こうした利点から既存のライフルをブルパップ化するコンバージョンキット商品も市販例が見られるが、多くの場合そうした「後付け」のパーツはトリガーの引きの悪さの問題が解決されておらず、あまり一般的ではない。

 ブルパップ(Bull pup)の語源について定かではないが、パワフルかつコンパクトという意味で、「ブルドックの子犬」ではないかという説が有力である。*3
 


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • よろしくないとは聞いた事がある。ちなみに『FAMASのパクリ』と揶揄されたクロアチアのVHSライフルの最新型、VHS-2はブルパップながらアジャスタブルストックが搭載している。んでもってFA-MAS後継ライフルのトライアルに候補として参加している -- 2016-04-10 (日) 00:22:57
  • VHS-2も結局フランス軍には採用されなかったが、何故かイラク軍に採用された模様。イスラエルといいまさか今後中東でブルパップ化が進んで行くなんて事もあるのだろうか・・・ -- 2016-11-02 (水) 19:31:56
  • 薬莢排出がなく火薬炸裂音のしない上に投射物がほぼ直進する光子であるレーザービームライフルにおいてはブルパップはメリットしかないことであることですね?(ハイライトの消えた目) -- 2016-12-30 (金) 17:17:04
  • 完璧なアイデアだな・・・レーザーにバレル長は必要ないという点に目をつぶればな・・・ -- 2016-12-30 (金) 17:30:57
  • そもそもライフルである必要も無いしな。 -- 2016-12-30 (金) 18:07:53
  • ライフル型のほうが訓練時の移行作業や照準時の構えとかしやすそうな気がする -- 2016-12-31 (土) 00:39:10
  • 最近 5,56mm アサルトライフルが416とか造形含めて
    AR-15系カスタム一強にになってきてつまらんから 

    まだ独自色残せるブルパップ好きになってきた -- 2017-06-08 (木) 20:54:39
  • sksとかナガンのブルパップ化キットがあるのを見るに、少なくとも民間には人気というか需要はあるのか。 -- 2017-07-02 (日) 12:20:56
  • 軍用に全然需要がないかのような言だがどっちも比率的には似たようなものだと思うが。 -- 2017-07-02 (日) 17:20:48
  • ウクライナの防衛企業BlackStorm社は、散発する塹壕戦に対応するべくAK47/74をブルパップスタイルへと変換するためのキット「BlackStorm BS-4」を開発し軍に納入しているそうです。 -- 2023-08-17 (木) 22:07:59
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*1 実際現存が確認されるブルパップ型軽機関銃はQBB-95及び改修型のQJB-95-1、及びロシアの銃器メーカーで発表されたPKPのブルパップ仕様、G11の大容量バリエーションLMG11などごく少数である。
*2 G36も、開発ごく初期の段階では、ブルパップ式も検討されていた。
*3 同様の理由で元々競技用にストックやグリップを追加したカスタムハンドガンがブルパップと呼ばれていたとの報告もある

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Last-modified: 2023-11-23 (木) 21:28:14 (148d)