スコープ(照準眼鏡) / Telescopic sight †
対象の光像を拡大し、投影像に描かれた模様「レティクル(Reticle)」と重ね合わせることで肉眼による照準では困難な遠距離目標への精密射撃を可能とする最も一般的な光学照準器。
小銃に装着するのが一般的だが、製品によっては機関銃や拳銃に装着可能なものもある。
スコープ単体ではただの単眼鏡であり、スコープを銃に固定するスコープマウントが必須となる。かつては銃ごとの専用マウントが使われていたが、後に汎用性を持つレールマウントとマウントリングを介して装着するようになる。マウントリングは汎用的にスコープをマウントレールに取りつけることのできる器具である*1。
主に狙撃銃や重機関銃で用いられている装備だが、近年は、トリジコン ACOGなどの小型低倍率の近中距離用スコープを主力歩兵銃に遍く装備させるケースが増えている。70年代、80年代には、もともとアイアンサイトでの照準に不安のあるブルパップ式の軍用銃で見られたケースだったが、精密射撃はもちろん、錯綜した地形で遮蔽物に身を隠した目標を索敵するのにも効果を発揮するため、近年はダットサイトと並んで標準装備とする軍が増えている。
概ね「大型の可変・高倍率(最大倍率が6倍以上)」の物と「小型の固定・低倍率(1.5-6倍)」の物に分かれる。前者はより長距離での精度を重視する狩猟・狙撃向け、後者は軽さや照準速度の速さの点から軍用ライフルで主に用いられる。
スコープの光学諸元は一般的に「倍率x対物レンズ径」、「アイリリーフ」、「FOV(Field of View)」等が挙げられる。
「倍率x対物レンズ径」は「4x32」(4倍固定倍率で32mmの対物レンズ)、「3.5-10x40」(3.5倍から10倍の可変倍率、40mmの対物レンズ)というように表記される。レンズ径はミリメートル(mm)単位であるが、省略されることが多い。スコープの基本性能を決める諸元であり、レンズ径/倍率で求められる「瞳径」が大きい程像を明るく感じる。ただし、レンズ性能が高ければ瞳径(対物レンズ径)が小さくとも十分な明るさを確保でき*2、レンズ径が大きいとスコープ自体が大きく重くなるというデメリットが生じるためレンズ性能・倍率・用途に応じた適切なレンズ径が必要となる。
「アイリリーフ」は本来接眼レンズから目の距離のことを表すが、スコープの諸元値におけるアイリリーフは「ケラレ(像周囲に生じる黒い輪)」の生じない距離を意味する。本来遠すぎても近すぎてもケラレが発生するが、大抵のスコープの諸元値では近限界は省略され遠限界のアイリリーフ距離が記載される。また可変倍率式の場合、倍率によってもアイリリーフが変化する。
なお、アイリリーフを上下左右の三次元的に拡大した要素は「アイボックス」と呼ばれる。中心からズレて除いた時どこまでケラレが起きずに覗けるかという要素であり、これが大きいと覗き込みのズレを許容できるため、ゴーグルや眼鏡など、かさばるアイウェアを着用したままでの照準が容易になる。
「FOV」は像の視野の広さを表す。一定先の距離においてどれほどの長さが視野になるかで定義され、「○○m(ft)/100m(yr)」(=100m(yr)先の○○m(ft)の範囲が見える)というような表記がなされる。数字が大きい程像がより広い範囲を見渡せることを示す。また、スコープの視野は円錐状に広がっていくため、この視野の円錐の頂点角度をFOVとして表す場合もある。
レティクルは十字線や点などの模様で構成されており、この模様から目標との距離や着弾点を見定めて照準を行う。レティクルはスコープ内のレティクル板に金属ワイヤーを貼り付けたりガラスエッチングを行うことで構成する。中心だけでなく距離や風の補正・検出のために補助線(点)も描かれ、場合によっては複雑な紋様となる場合もある。レティクル板の配置によってFFP(First Focal Plane/第一焦点面)とSFP(Second Focal Plane/第二焦点面)の2種類があり、前者は倍率が変化した時レティクルも拡大・縮小するもので、後者は倍率によらずレティクルサイズが一定である。両者には一長一短*3があり、用途に応じて選択される。小型電球あるいはLED、トリチウムなどの光源によってレティクルを発光させることが可能なものもあり、レティクル全体や中心点を点灯させる*4。
スコープはズームする特性上視野が狭まり、またアイボックス(アイリリーフ)を持つため覗き込める角度や距離に制約が生じ、近距離での照準が難しい。このため、近年の小型軽量化の進んだダットサイトをスコープと平行に装備し、遠近両方に対応できるものも登場している*5。
主な例としてはドイツ連邦軍で使用されているG36のヘンゾルト製光学サイト&コリメーターサイトや米英軍のミニダットサイト*6付きACOG等が挙げられる。スコープ用マウントリングに専用のボルトオンマウントやピカティニーレールを備え、ダットサイトを装着可能としたものもある。
欠点としては、追加したマウントとダットサイトの分重くなることと、スコープ上部にマウントした場合、ダットサイト側の照準線が高くなることが挙げられる。銃身を軸として斜めにオフセットして装備し、照準するさいは銃を斜めに傾けて使用する例もあるが、この方法なら照準線は低く保てるものの、スイッチング(持ち手の入れ替え)は困難になる。
近年はLPVO(Low Power Variable Optic=低倍率可変スコープ)と呼ばれる遠近両用スコープも登場している。倍率は最大で4~8倍だが等倍視があるのが特徴で、近距離では等倍でダットサイトのように素早く照準し、遠距離では高倍側で精密な射撃をすることができるため、最大3倍程度のマグニファイヤ併用ダットサイトに比べて、一本で多様な場面に対応可能である。欠点としてはACOGのような倍率固定スコープより大きく、ダットサイトに比べて重いこと、最低倍率で等倍といえスコープであるために前述したアイボックスの存在がつきまとうこと、低価格品だとコストカットの為に最低倍率が1倍ではなく1.2倍など若干の倍率を持っている製品があることが挙げられる。
狙撃手にとってはほぼ必須の装備である一方、環境によってはレンズの反射によって位置を知らせてしまうという危険性もある。メディア作品でもスナイパーに狙われている演出として「スコープの反射光」がよく使われる。
このため、現実の狙撃手はスコープ上にカバーや布を被せたり、より進んだ装備としてARD(アンチリフレクションデバイス、反射防止装置)*7や反射防止コーティングを施したレンズなどを用いる。
余談だが、各種ブランドのスコープやダットサイトが実際にはブランドを持つ国と製造国が異なる所謂ODM*8やOEM*9ということがしばしば見られる。こういった製品の製造国としては日本や中国、フィリピンなどが知られている。