ヘルメット / Ballistic Helmet

 頭を保護するために着用する防具の一種。現代では工業用、防災用、交通用と幅広く存在するが、本ページでは戦闘用を中心に記述する。
 原型である兜自体は古代のシュメール文明から既に存在していたが、現在の物である歩兵用の軍用ヘルメットは、第一次世界大戦で砲弾や手榴弾、石の破片から頭を保護するために開発された。

 当初の素材はこの用途で世界初のヘルメットであるフランス軍のM1915ヘルメットのようなプレス加工で製造された鋼鉄製であった。重い上に銃弾の直撃には耐えられなかったものの、砲弾の破片からの防御には大きな効果を発揮した。1970年代に歩兵の負担を軽減するためにケブラー(Kevlar)*1を何層も重ね樹脂加工し軽量化した物が登場し、80年代初頭にはアメリカ陸軍で研究開発されさらに改良されたドイツ軍のフリッツヘルメット型のPASGT(Personal Armor System Ground Troops)ヘルメットが採用された。この形状には後頭部を破片などから保護できるメリットがある。21世紀に入るとアメリカ陸軍のACH(Advanced Combat Helmet)に代表される装甲範囲を削減して軽量化したヘルメットの使用が広がった。元々はヘッドセットを多用するため歩兵用のヘルメットが着用しにくかった特殊部隊向けに開発された軽量ヘルメットであり、一般歩兵でもヘッドセット使用機会が増え、従来のヘルメットがボディアーマーと干渉する例もあったため一般歩兵向けにも採用された。また冷戦終結後、テロリストや反政府組織相手の非対称戦争が主流となり大戦期のような大規模砲撃戦の発生機会が減ったことも一因となっている。一方で防御範囲が減ったことで元々の目的である「破片防御」性能は旧来のものより劣っていると言われており、事実ACHでは後頭部や頸椎の負傷が増加したため防御用ネックパッドを後年追加している。また2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻では正規軍同士の紛争だけあり近年稀に見る砲撃戦が繰り広げられているが、ウクライナ側に軍事支援として西側から供給された各種ヘルメットの中でも、防御範囲の狭い軽量タイプのヘルメットは砲撃で死傷しやすいと報告されている。
 防弾性能に関してはPASGTの時点ではNIJ規格のタイプIIで拳銃弾に耐えられる程度であったが、抗弾性の向上したACHは.44マグナム相当のタイプIIIAに耐えられるようになった。さらに後継のECH(Enhanced Conbat Helmet)ではタイプIIIとなり、ライフル弾の阻止も可能となった。

 視認性減少の為に偽装網や迷彩カバーが用いられることがある。さらに擬装効果を出す際には、偽装網やヘルメットバンド、スリット付きのカバーに枝葉を差し込む手法が取られる。
 現代の軍用品では、LWHなどナイトビジョンのマウントが標準装備されることが多い。加えてアタッチメントポイントやマウントレールを持ち、LEDライト等のアクセサリーの追加ができるものも登場し、ミッション記録用にデジタルカメラを搭載したものや空挺作戦向けにゴーグルや酸素マスクを追加することもできる。標的になりやすい機関銃手向けに下顎部までの装甲を追加してフルフェイスヘルメットのような見た目となる追加装甲キットも開発されている。
 ドイツのウルブリヒトAM-95防弾ヘルメットなど警察系の特殊部隊のヘルメットには顔面を守るフェイスシールド(単にバイザーとも)が装備されることがある。このシールドはストック付きの銃器を使う際には干渉するため、ハイマウントの光学照準器を用いるか、フェイスシールドの下を通せるヘルメットストック*2が装備される。
 
 なお、最近はゲームの「プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ」や「レインボーシックス:シージ」でも有名なロシアの旧式フルフェイスヘルメット(それぞれAltyn、Maska-1)は外見が武骨であるためか高い防御力を持つ設定となっている。しかし素材が旧式のため現実での防弾性能は意外にも低く、GOST*3クラス2、NIJ規格ではIIIA相当でありライフル弾を防ぐ性能はない。

 第二次世界大戦やベトナム戦争を題材にしたメディア作品においては、よくヘルメットの顎紐を外しているのが見かけられる。単にビジュアル上の演出以上の意味合いはないが、当時ヘルメットが爆風で飛ばされたとき顎紐が首の骨を折ったり切断するといった迷信や規律に対する言い訳も存在したようである。

 特殊な使用例として、身分証明のために国連のPKO部隊が着用している「ブルーヘルメット」がある。

 主なモデル例

モデル名配備開始
日本66式鉄帽1966年
88式鉄帽1988年
88式鉄帽2型不明
アメリカPASGT (Personnel Armor System for Ground Troops*4)1975年
MICH (Modular Integrated Communications Helmet)2001年 特殊部隊向け
ACH (Advanced Combat Helmet)2003年 陸軍向け
LWH (Lightweight Helmet)2003年 海兵隊向け
FAST (Future Assault Shell Technology)不明 特殊部隊向け
ECH (Enhanced Combat Helmet)2013年 陸軍・海兵隊向け
イギリスG.S.Mk.61980年代前半
ドイツB-826ケブラー・ヘルメット不明
ウルブリヒトAM-95防弾ヘルメット不明
ロシアMaska-1Sh不明
6B72002年?
イスラエルRBH103不明
カナダCG634ヘルメット不明
フランスF2ヘルメット1980年代

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 追記ありがとうございます。 -- 2019-03-12 (火) 19:03:41
  • 遅くなりましたが要望に応えて頂き、ありがとうございました。感謝申し上げます。現代において、ヘルメットとボディアーマーはセットのものなので、ずっと項目があった方がいいと思っていました。byボディアーマーコメント欄の2015-12-04 (金) 16:52:41 -- 2019-04-07 (日) 19:44:27
  • フィクションでは、ヘルメットのあご紐を止めてないように見えるのですが、通常止めないものなのでしょうか? -- 2019-04-07 (日) 20:41:15
  • なおヘルメットの顎紐を止めないものに関しては(特に米軍のものは)当時の大量生産品は固定力が弱い割に外すのに手間取る金具式のものであったため、単に不評であったようです(PASGTヘルメットでも固定方式の脆弱さがレポートされたため、後継モデルでは改良されました) -- 2019-04-08 (月) 21:38:00
  • M1917含む、ブロディヘルメットはどの程度まで抗弾性があるのでしょうか? -- 2019-04-15 (月) 03:06:58
  • 言うまでもなく現代のものより防弾性能では劣りますので、至近距離の9mm弾ですら貫通を防ぐことはできません。しかしながら短機関銃主力の時代ですから遠距離の拳銃弾などは十分に防げますし、何より一般的な想像より破片による頭部負傷は非常に多いため、それでも十分効果的だったのです(イギリス軍がブロディ―ヘルメットを採用すると、戦場によっては頭部を負傷する兵士が4倍に増えたというのは有名な逸話です。それだけの数がヘルメットの改良前は死亡していたのです) -- 2019-04-15 (月) 20:52:45
  • PASGTに比べてスチールのM1の方が軽いので、素材がケブラーに変更された理由は軽量化ではなく、防護力向上を狙ったものではないでしょうか? -- 2020-10-27 (火) 15:01:00
  • 戦闘用ヘルメットの性能には避弾経始は関係なかったりしますか? 球形は衝撃を受け流したり和らげたり、伝わる力を軽減する効果がありますが、それに構成素材や構造を加えれば、マッハで飛来する銃弾に避弾経始が働くのではないかなあと考えたりするのですがどうでしょう -- 2021-02-04 (木) 06:18:25
  • 本文で最初に出てくるACHの括弧内の正式名称、綴りが間違ってますね・・・・。 正しくはAdvanced Combat Helmetです。 -- 2023-08-29 (火) 00:47:55
  • 修正しておきました。 -- 2023-08-29 (火) 08:59:49
お名前:


*1 1964年に登場した高強度のアラミド繊維
*2 B&T社のMP5用のものが日本含め世界的に使用されている
*3 ロシアなどCIS加盟国で採用されている標準規格。食品から工業製品、あるいは医療サービスなどほぼ全ての分野をカバーしており、防弾規格もこれにより規定されている
*4 ボディアーマーと合わせた一式の名称

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2023-11-19 (日) 01:23:17 (323d)