銃床 (じゅうしょう) / (Butt)Stock †
小銃、散弾銃、機関銃等、拳銃を除けば大抵の銃に存在する、銃の保持を補助するための部品。英語では「ストック」「バットストック」と表記する。
ストック自体は銃の黎明期より存在するが、「ストック」という言葉は16世紀頃にドイツ語の「(木の)幹」を意味する単語から転用されるようになった。
伝統的な銃床は銃のフレームであり、添え手で握るフォアエンド(先台)から銃尾より後方のバットストック(元台)までが一体となっているが、現代の軍用銃器ではフォアエンドとバットストックが分割され、フレームとしては機能せず保持の補助に徹したものが多い。
精密射撃用の競技銃や狙撃銃では調節可能なチークピースやリコイルパッドを備えるものもある。
素材は耐衝撃性に優れ熱が伝わりにくく、経時変化による狂いの少ないものが用いられる。主にウォールナット(クルミ材)などの丈夫な木材、或いはプラスチックなどのシンセティック素材が用いられ、結合部や心材にスチールやアルミ合金(場合によっては真鍮や亜鉛合金)などの金属素材が用いられる。
下部や側面には、スリングを装着する金具が取り付けられていることも多い。
本来の役割以外としては、CQBやCQCと呼ばれるような近接戦闘で、銃剣を装着していない、あるいは相手が銃剣の間合いよりも更に接近しているような場合にグリップハンドを突き出すようにして銃床のトゥと呼ばれる角を叩き付けたり、あるいは姿勢を崩したりして低い位置にいる相手には土木作業の転圧に用いるダンパーのように銃身やフォアエンドを両手で掴んで振り下ろしてバットを叩きつけたりと、様々な格闘手法で用いられている。また同様にして物品を破壊する場合に利用することもある。
映画などでは、相手を気絶させるシーンに用いられるケースが多いが、現代の自衛隊の「自衛隊銃剣格闘術」でも、マガジンなどとともにストックによる打撃が採り入れられ、実際に訓練が行われている。
コルト M16などの軍用銃ではデッドスペースの有効活用として中にクリーニングキットが収納できるようになっていることも多い。
銃床の部位 †
1.バット(床尾)
銃床の後端部。基本的には強度向上ためのバットプレート(床尾板)や、反動衝撃の低減のためのリコイルパッドが貼られる。
体格、体形、着衣などによって適切な長さが異なり、精密射撃用の銃ではその差異を吸収するために調節可能なものが多い。
2.フォアエンド(先台)
添え手で支えたり、精密射撃時に脚やバッグに依託する部分。銃身上部までを覆うものはハンドガード(被筒)と呼ばれる。
精度が要求される用途の銃では、先台が銃身に接触しないように作られていることが多い。
3.コーム・チークピース・チークレスト
頬付けする部分。
厳密にはコームは銃床の上面、チークピースは射手側の側面を指すが、英語圏でも頻繁に混用されているのでここにまとめる。
照準器の高さや射手の顔つき、銃の用途により最適な形状が異なり、こちらも調節可能なものがある。
- ・ストレートコーム
標準的な形状なのでコンベンショナルコームとも呼ばれる。頭部で銃を上から抑え込む形になりしっかりと銃を固定できるが、長時間の構えを維持するのは辛く、跳ね上がりによる頭部へのショックが大きい。
・モンテカルロコーム
ヒールよりもコームが高くなっている。盛り上がりが側面まで続いているものを指すこともある。
肩よりも顔の位置が高くなるので姿勢が楽になるが、銃の保持が甘くなるのでスキートのように銃を勢いよく振り回す用途では採用されない。
「照準器のために使われる」という説明がされている場合もあるが、モンテカルロコームの定義はヒールよりも相対的に高いことである。アイアンサイトの使用を前提としたモンテカルロコームは少なくないし、逆に照準器の使用を想定したストレートストックもある。
・ロールオーバーコーム
盛り上がりが射手の反対側にまで張り出しているタイプ。頬付け面積が広く安定性が増し、精密射撃に向いているが、重くなり取り回しは悪化する。
画像の銃はロールオーバーコームになっている。
4.ヒール
バットの上側の角。
5.トゥ
バットの下側の角。
6.グリップ(握把)
トリガー操作を行う手で握る部分。角度によりストレートグリップ、ピストルグリップと呼ばれる各形状がある。
7,サムホール
親指(サム)を通すための穴。これが設けられたストックをサムホールストックと呼ぶ。
独立グリップ同様の理想的なグリップ配置を取りつつ、手の位置を確実に定めることで安定性が増す。精密射撃に最も向いているため狙撃銃や競技用銃で見られる。
精度の観点からはサムホールは極力小さいほうが望ましいが、あまり小さいと操作性や取り回しが悪くなるため、軍用狙撃銃では穴が大きく作ってあるものも多い。
独立グリップのライフルが規制されている地域で、法的に合致するようこのタイプに改修したものも多い。
銃床の形式 †
下記に挙げる形式は、外観もしくは機能による区分だが、下記のうち2、3種の特徴を併せ持つ物も少なくない。
例えばドイツのG36の場合、フォールディング及びスケルトンのタイプに当て嵌まる。
・ストレートラインストック-直銃床
床尾の肩付け部が銃軸線の延長、またはその近くに配された銃床。反動を肩で真っ直ぐ受け止めることにより銃口の跳ね上がりを軽減する。
・ドロップストック-曲銃床、曲げ銃床
床尾の肩付け部が銃軸線の延長より下にある銃床。上述した直銃床に対するレトロニム。
目線を銃身に近づけることが出来るため、照準線と弾道のズレを抑え、精密射撃に向いている。
直銃床の登場以降も狙撃銃など精度を重視する分野で用いられていたが、光学照準器の使用が前提となった昨今では照準高が否応なく上がってしまうため、軍事用途では狙撃銃などでも減ってきている。
・ストレート(orイングリッシュ)ストック
ストレートコームにストレートグリップのストック。
・ヴァーミント(orヴァーミンター)ストック
その名の通り、素早い害獣(ヴァーミント)を仕留めやすいよう、気づかれない距離から狙撃するための精密射撃仕様。
先端が幅広のフォアエンドにより砂袋等への依託が容易になっており、コームはモンテカルロかロールオーバーで射撃精度に特化している。
積極的に追いかける用途には使わないため軽さはあまり考慮されない。
・マンリッヒャーストック
全体は比較的細めで、フォアエンドが銃身に近いほど長く伸びるのが特徴のストック。カービンで持ち手を長く取る目的や、小口径のバレルが軽い銃で銃全体の重量バランスを良くするために使用される。名称通りマンリッヒャー社の古いライフルに多く見られたスタイル。
・ベンチレストストック
その名の通りベンチレスト競技に用いることに特化したストック。
レストのためにフォアエンドは逆三角形になっており、重りとするためバットストックがかなり大きく作られている。
競技の性質上頬付けはほとんどしないため、照準器に対して低めのストレートコームになっていることが多い。
・スケルトンストック
肉抜き加工(SG550等)が施されていたり、ワイヤー(金属線)やパイプを組み合わせて作られていたりと、最低限の骨組みのみで構成されたストック。
なお、ワイヤーを折り曲げて作られたものはワイヤーストックという(スコーピオン等が代表例)。
このタイプが採用されるのは軽量化が主な理由だが、折り畳んだ状態で排莢口を塞いでしまわないように採用している銃もある。
普通はライフル系の銃に備わっているが、リボルバー(SAAなど)に装着する物も存在する。これはリボルバーカービンのような固定式ではなく、簡単に着脱することが可能となっている。
・フィクスドストック(固定式銃床)
バットストック部が機関部に固定され、収納や伸縮機能を持たないストックのこと。
下記のような多機能銃床と区別するための用語である。ただし肩当やチークピースなど上下幅や若干のストック長が調節可能であってもフィクスドストックと呼ばれることもある。
・フォールディングストック(折り畳み式、折り曲げ式銃床)
運搬のさいに取り回しが良いよう、折り畳むことが可能となっているストック。
横に折り畳めるタイプや前方に倒すタイプが多いが、ウージーのように機関部の下に折り畳むタイプもある。横に折り畳むタイプの場合は、排莢口を塞がないように左サイドに折り畳むか、畳む角度を若干下げるような設計としている場合もある。
またM93Rやグロック 18などのマシンピストル用フォールディングストックもある。
・テレスコピックストック(伸縮式銃床)
長さが調節可能なストック。スライドストック(引き出し式ストック)、または上記のフォールディングストックともども、リトラクタブルストック(収納式ストック)とも呼ばれる。
運搬のさいに取り回しが良いよう設計された点はフォールディングストックと同様だが、数段階に調節可能なタイプは、使用者の体格や装備状況(ボディアーマーなど厚みのある服装の場合)に合わせることができる利点をもつ。
AR-15系の場合、バッファーチューブがストック内部にまで突き出している*1ため、フォールディング化が困難であったことから、その代用として使われた。
全長の短縮という面ではフォールディングストックに劣るので、両者を組み合わせたタイプも登場している。
・拳銃用ストック
自動拳銃に装着する着脱式のバットストック。ボーチャードピストルを始め、ブローニング・ハイパワーなど、19世紀末の自動拳銃黎明期から戦間期までの大型自動拳銃にはセットで販売されるものが珍しくなかった。
銃自体の性能が変わらずとも、銃床が追加されることで射撃精度は大きく向上することから、ルガー P08の砲兵モデルなど、後方部隊の護身用小火器の装備としても用いられた。
他にはモーゼル C96/M712やスチェッキンの他、装着することでバースト射撃が可能となるVP70が有名。
近年では、ストック装着機構の無い拳銃にストックを追加できる「ピストルカービンキット」も登場している(FABディフェンス KPOS、CAAタクティカル ロニ等)。
・ホルスターストック
自動拳銃のホルスターとしてストック内に銃本体を収めることが可能な着脱式ストック。ストックとして使用可能なソリッドで大柄なものとなるので、単純にホルスターとしては嵩張るのが難点。
上記のC96/M712、スチェッキン、VP70のストックはホルスターストックでもある。
・スライドファイアストック
AR-15等のカスタムが盛んなアメリカで生まれた疑似フルオート用のストック。
スライドとグリップを一体化し、銃本体をスライドさせ、指から放すことでトリガーが戻り連射を可能にする。詳細はラピッドファイアのページを参照。
・フィーチャーレスストック
アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州などの、より高度な銃規制に対応した構造のストック。
固定ストックかつサムホール・または独立グリップとはならない形状のもので、いずれも片手で握って保持するのが困難になっている。
銃規制に対応するためにはこのストックのみではなく、マガジンリリースの改造やフラッシュサプレッサーの装着不可(同等の機能を持たないコンペンセイターは可能)などを適用する必要がある。
・スタビライジングブレイス(アームブレイス)
銃尾から伸びた棒状のパーツ先に腕輪がついており、前腕に固定することで銃の片手保持を容易にする製品…というのが表向きの用途だが、明らかにストックとして使えるようにデザインされているものが多い。
アメリカにおいて短銃身の銃器にストックが付く場合、SBR(Short Barrel Rifle)として規制されるが、ストックレスの場合法律上ピストル扱いになり規制が緩いという点に着目して作られたアクセサリー。
肩付け使用に関してATFの見解は合法・違法を二転三転*2している。
派生形は数多く、腕が添えられるだけの薄い板となってる「ブレード」タイプのものや、腕輪を鉤形状にして取り回しをよくした「フック」タイプのものなどがある。
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