コンペンセイター(銃口制退器) / Compensator †
銃身の銃口(マズル)部分、またはその先端に取り付けて反動を軽減する装置。「マズルブレーキ」とも呼ばれる。
強烈な反動ゆえ設置面を破壊する恐れがある大砲などでは古くから使用されていたが、第二次世界大戦では従来の銃火器と異なり、軽量ながら強い反動を有する短機関銃が登場したことで広く小火器にも普及した。しかし時代の移り変わりに伴い、現代では主に競技用銃で採用されるようになっている。
原理としては、発射ガスを上や左右に偏って噴出させることで、反動やマズルクライム(銃口の跳ね上がり)を抑える。その字面から「銃口エネルギーをロスする」と誤解されることもあるが、銃身長に変化がない限りそのようなことは起こらない。
一方、ガスに指向性を与えることでマズルフラッシュ(発射時に銃口から出る炎)や発砲音が非常に大きくなる問題がある。横にガスを噴出させるタイプの場合、並んで発砲した際に隣の射手に発射ガスを吹き付けることになるため、CQB等チームメイトと密集して発砲するような場合に問題になることがある。
その効果はコンペンセイターの設計自体、そして何よりも使用弾薬によって大きく変わるが、概ね10〜50%程度の反動軽減効果が期待できるものとされている。
小口径・低反動の銃器が一般的になったため、第二次大戦後は軍の小火器用としてはあまり用いられなくなったが、対物火器に分類されるM82のような大口径ライフルや、AN94のような超高速バースト機能を持った銃器においてはその有用性を示している。
現在見られる小火器用のコンペンセイターは主に競技用のものである。通常の戦闘とは異なる、複数の的に素早く照準を合わせるスピードシューティングの世界では、マズルクライムを少しでも抑える事が重視されるからである。個人趣味の分野でもSBR(Short-Barreled Rifle)と呼ばれる短銃身モデルや、マグナム弾を使用する拳銃の反動を抑制するために使われるケースもある(M500など)。これらの用途に使われる製品では、最初からコンペンセイターを組み込んだモデルも多い。
散弾銃においてはコンペンセイターはやや特殊な働きをする。散弾自体が軽く直進性が低いため、コンペンセイターを用いると散弾が偏向されたガスの方向に拡散するのである。
例えば、左右にガスを排出するコンペンセイターでは横長の楕円形に散弾が広がる。ベトナム戦争時代にはこれを利用して、水平方向の広範囲を薙ぎ払う「ダックビル・スプレッダー*1」と呼ばれる物が一部のショットガンに装着されていた。同様の製品はスパス12にも用意されていたほか、2012年にもパラダイム社から「GATOR*2」の名称で販売されている。
ただし、より粒の小さい散弾、例えばバードショットなどはコンペンセイターの穴に詰まってしまう危険性があるため、ダックビルに限らずコンペンセイターとの併用は基本的に推奨されていない。
類似構造や名称のブレについて †
同じく銃口に取り付けるフラッシュハイダーとは混同されることが多いが、それぞれの役割は全く異なり、機構的にも別物に近い。
一応、根元にコンペンセイター、先端にフラッシュハイダーを搭載することで双方の効果をそれなりに併せ持つパーツも存在している(SureFire社のWarComp、日本の89式小銃の消炎制退機など)。
「コンペンセイター」や「マズルブレーキ」といった名称には厳密な定義が今のところ存在しないが、元々コンペンセイターとはトンプソン短機関銃用の「上方にガスを噴射して銃口の跳ね上がりを抑える装置」(カッツ・コンペンセイター)、マズルブレーキとは「側面からガスを噴射して大砲の後退を抑える装置」が起源であるため、製品としてもそのイメージのものが比較的多い。近年のビデオゲームではその影響からか、コンペンセイターが上方向の反動、マズルブレーキが横方向の反動を軽減する装備として描かれているものが多く見受けられる。
しかし、例えばS&W M500とデザートイーグル用のものは、双方同じ左右斜め上に開口部を持つデザインにもかかわらず、それぞれ「コンペンセイター」「マズルブレーキ」と公式に呼称されているなど、メーカー各社で共通した概念ではないようである。
銃身自体に穴を開けることでコンペンセイターの役割を持たせたものは「ポーテッド・バレル(穴あき銃身)」と呼ばれ、厳密には銃身自体の名称となる。ガンスミス業者にはバレルポーティングを請け負うところも多い。
なお、ポーテッド・バレルは「マグナポート」と呼ばれることがあるが、これは初めてポーティング加工を行ったマグナポート・インターナショナル社の商品名に由来する通称である。
なお「コンペンセイター」や「マズルブレーキ」といった名称で定着するまでは多くの名称が存在しており、例えば前述のカッツ・コンペンセイターを発明したカッツの最初の特許では「クライムアレスター(Climb Arrester、「跳ね上がりを拘束するもの」)」*3、BARの警察用モデルでは外見から「リコイルチェック(溝)」等と呼称されていた。