USSR トカレフ / СССР ТТ 【自動拳銃】 †
ソビエト連邦のヒョードル・バジレヴィッチ・トカレフ(Фёдор Васильевич Токарев)技師によって開発された、ソビエト初の自動拳銃。
それまで制式拳銃であったナガン・リボルバーの後継として開発され、1930年にトカレフ技師の設計したモデルが「1930年型自動拳銃(Пистолет обр. 1930 г)」の名称で採用された。更に1933年には、生産性を向上するため構造の簡素化を施された改良モデルが採用された。
これらが現在知られるいわゆる「TT*1-30」「TT-33」であるが、実際にはこれらの型番が付与されている訳ではなく、後世の方式で分かりやすく命名されたものである。ロシア・ソビエト連邦の軍備品コードでは「56-А-132」のコードが割り当てられている。
設計の経緯は明らかとなっていないが、外観はFN M1903、動作機構のティルトバレル式ショートリコイルにはM1911の影響が明確に見て取れるものとなっている。
当時、革命の混乱期から開けて間もないソ連では、早期に軍備を整える必要があったことから、トカレフの設計は生産性を最優先とされた。そのためマニュアルセイフティの一切が排され、唯一ハンマーをハーフコック状態にするためのノッチが備えられているのみで、安全を第一として携行するには非装填状態にしておく以外には無かった。
弾薬には、帝政時代から使用されていたモーゼル拳銃用の7.63mmマウザー弾(7.63mm×25)を強化した、7.62mmトカレフ弾(7.62mm×25)が設計されている。若干の寸法差があるものの、トカレフ拳銃にはどちらも装填可能である*2。これは当時備蓄のあった7.63mmマウザー弾を流用するためと、ソ連軍の制式歩兵銃だったモシンナガン小銃と同じ口径とすることで、銃身の製造工程の多くを転用することができたためである。
また、ハンマー・トリガーユニットのモジュール化や給弾信頼性を高めるマガジンリップ、丸みを帯びた形状で厚い手袋や防寒具を着用した状態でも引っ掛かりを起こさないよう配慮されたハンマーなど、情勢や使用環境に基づいたさまざまな工夫が見られる。.30トカレフ弾も、当時の拳銃弾としてはかなり高い初速があり、第2次世界大戦中には短機関銃用として、P-41という徹甲焼夷弾バージョンが作られている。
オリジナルのモデルは1953年に製造を終了し、後継モデルのマカロフ拳銃に置き換えられたが、東側諸国で多数ライセンス品やコピー品が生産された。中国製の54式手槍の一部の輸出モデルや、ツァスタバ社などの一部のコピー製品では、輸出(民生用)も意識してかサムセイフティが追加されている。同時期のM1911などと同様、世界で最も多く生産された拳銃の一つであると考えられている。
他のソビエト連邦の旧式の武器同様、戦後は武装勢力やマフィアなどに流れたものも多く、特に携帯性が高いにも関わらず高初速かつ前述のような特殊弾によって低級のボディアーマーを無効化可能な高貫通力を持っていたため、日本を含む各国法執行機関には恐れられた。
メディア上でも、特に日本では「暴力団の持つ拳銃」というイメージがドラマや漫画を通して確立されており、暴力団を扱うメディア作品には頻繁に登場する*3。もっとも如何に安価とはいえ、現在では同程度の価格でより新しく性能が優れた銃器(主にマカロフやそのコピー品)が調達できるようになっているため、実際に犯行に使われるケースは少なくなっている。
各種バリエーション †
モデル | 特徴 | 製造期間 | 生産国 |
TT30 | 初期型、V字型リアサイト | 1930-1935 | ソ連 |
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TT33 | 主力モデル、リアサイトを凹型に変更 一部、スライドのセレーションを細溝に変更 | 1933-1953 |
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ラドムwz33 | − | 1947-1948 | ポーランド |
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ラドムwz48 | トリガー付近にマニュアルセフティ追加 | 1948-1959 |
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FEGトカレフ48M | セレーションを細溝に変更 | 1947-1958 | ハンガリー |
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FEGトカジプト58 | エジプト軍向けに9mmx19口径、7+1発に変更 グリップ形状を握りやすいものにしサムセイフティを追加 エジプト軍が不採用を決定した後に市販 | 1958-不明 |
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TT-C | セレーションを細溝に変更 トリガー付近にマニュアルセイフティを追加 | 1950-不明 | ルーマニア |
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ツァスタバM57 | セレーションを傾斜した細溝に変更 グリップを延長し9+1発へ増弾 マガジンセイフティ追加 | 1957-不明 | ユーゴスラビア |
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51式手槍 | 中国国営工廠によるTT33のライセンス生産型 セレーションを細溝に変更 | 1951-1953 | 中国 |
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54式手槍 | 中国独自改良型 51式手槍を元にグリップ形状を中国人の手に合わせて変更した他、ライフリングやエジェクターなども変更されている | 1954- |
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54-1式手槍 | 54式手槍を元にした輸出型 フレーム後部左側面にサムセイフティ追加 | 不明 |
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M213 | 54式手槍を元にした9mmx19口径仕様の輸出型 初期は8+1発仕様のみだったが、後にA型:13+1発 B型:8+1発の2つの仕様となった。 | 不明-現在 |
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M20 | ベトナム戦争時の北ベトナム軍向け54式手槍 製造元隠匿のためスライド上部に"M20"とシリアル番号、製造工廠を示す刻印しか打たれていない | 不明 |
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北朝鮮68式拳銃 | FN ハイパワーに似たリンクレス式ティルトバレルを採用 | 1966?-不明 | 北朝鮮 |
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