銃把 / Grip

 殆ど各種の銃器が人の扱う道具であるために、人の手で握って保持する為に備わっている持ち手の部品。英語では「Grip(グリップ)」と呼ばれる。
 日本語では銃に限らず刀剣や工具などあらゆる道具の持ち手の部分を示す単語として「握把」と呼称される場合があり、自衛隊などではこちらの呼称が用いられている。
 添え手で支える銃の前方の持ち手部分はハンドガード、あるいはフォアグリップと呼ばれる。

 握り易さを向上させるため、グリップパネルと呼ばれる木材や樹脂材料などで作られた部品を側面に取付する事が多い。またPx4など近年のポリマーフレームを採用している拳銃の一部ではグリップの側面にはフレームと別部品のグリップパネルを採用せず*1、グリップの後面を交換式のバックストラップとする事で、個々人の手の大きさの差異に対応できるようにしているものがある。
 またフィンガーグルーブと呼ばれる指掛けの突起を設けたり、チェッカリングと呼ばれる多数の溝を交差させるように削った菱目の滑り止めを設ける事がある。

 銃器の種類により多様な形状のグリップが用いられており、また使用者の体格や手の大きさにより扱い易さが大きく変わるため、銃器を選ぶ要素の一つとしてグリップの握り易さが重視される事も多い。
 AKAR15のように広く普及した銃器では、アメリカのマグプル社などのサードパーティメーカーがカスタムパーツとして各種のグリップを製造販売しており、これらに交換する事で握り心地を変化させる事ができる。

 グリップの種類としては以下のようなものがある。

・ストレートグリップ
 銃床と一体化しているグリップ。マスケットや20世紀初め頃までの小銃に採用例が多い。
 銃床の下部分に盛り上がりや突出部分が一切無く、上部分に親指を載せるためのくびれが備わっているだけとなっている。
 後述のピストルグリップ登場以前には主流の設計だった。鳥打ちのように仰角射撃を主とした保持には向くものの、銃を水平に構えるさいには手首を捻らねばならず、安定して肩へと引き付けるには強く握る必要があり、長時間の保持がし難い。

・ピストルグリップ
 直訳では「拳銃の持ち手」となるが、意味としては「小銃や機関銃を拳銃のように握れるようにした持ち手」である。
 ストレートグリップの銃床の下部分に盛り上がりや突出部分を設け、トリガーハンドの手の握りを拳銃のように、前傾させない垂直に近い角度で握れるようにしたもので「セミピストルグリップ」または単に「セミグリップ」とも呼ばれる。これにより手や手首にあまり負担を掛けず銃を肩に引き付け易くなっている。盛り上がりが小さいものは、前後に利き手をずらす必要があるダブルトリガー式の銃で採用されることがある。
 現代の小銃ではあえてクラシカルな外観を再現している場合などを除きほぼ間違いなくピストルグリップが採用されている。

・フルピストルグリップ
 ピストルグリップの内、銃床とは別に取付された持ち手部分。ただしセパレートでないものと分けて扱う為の便宜上の呼称であり、銃器メーカーや使用者である軍などが作成するマニュアルなどの文書や、実際の運用における呼称は区別せずに「ピストルグリップ」あるいは単に「グリップ」となっている場合が殆どである。
 グリップ部分が銃床とは完全に別離した事で、銃床の強度に関係なく人間工学により配慮した持ち手の形状を決められるようになった。また親指を銃床の下に回せるようになった事で、銃を肩へ引き付けるのみならず前へ押す方向にも力を掛け易くなっている。添え手でストックを引き付け、利き手でグリップを押し出すように保持することで、依託射撃時に手ブレを抑えやすい。
 第一次世界大戦以降の自動小銃軽機関銃といった自動火器に多く採用されており、第二次世界大戦以降に各国で普及した突撃銃ではほぼ全てがこの形式を採用した。軍用銃と法的に判別する上での特徴の一つとされ、規制の対象になることもある。
 しかしながら手の位置が安定しないため射撃精度に若干の悪影響があり、射撃精度が優先される用途では避けられることもある。

・スペードグリップ
 土木作業や農作業で地面を掘るのに用いる「鋤・Spade(スペード)」の持ち手に似た形状をした持ち手。左右の両手で1本ずつ握るために持ち手が2つ並べて付いている事が多い。
 重機関銃擲弾発射器など銃架に載せて運用する火器で採用される事が多い。銃器の重量や反動のほぼ全てを銃架に負担させているため、グリップの役割を目標に向けて銃を指向させる事、トリガーの近くにトリガーハンドを置けるようにする事の2つだけとしている。
 銃床を兼ね備えていない事が殆どであり、脇と肘を閉じたコンパクトな姿勢で構える事が出来るため、ヘリコプターに搭載されるドアガンや装甲戦闘車両のピントルマウントに搭載する機関銃などといった、射撃姿勢に制約のある環境で運用する銃器に向いている。M60MAGといった汎用機関銃では標準の銃床を外してスペードグリップを取付可能としているものもある。

 また、特別に形式を示す呼称が無いが特異な銃の持ち手としては以下のような例がある。

・水平タイプ
 ブローニング M2のM63対空銃架やAGS-17のような、自転車のハンドルのように左右へ水平に伸びた形状の持ち手。
 仰角の変化に関わらず持ち手を握る角度が変わらないため、射撃目標の距離や高度により大きく仰角を変化させて射撃する対空機銃や擲弾発射器、あるいはその銃架に採用される事がある。
 AGS-17では発砲時の反動による跳ね上がりを押さえつけるため、水平に伸びたグリップを利用して射手が腕立て伏せのような姿勢で持ち手に体重を掛けて運用する事がある。

・角度可変タイプ
 九二式重機関銃96式自動てき弾銃のように持ち手を水平ないしハの字のよう折り下げた任意の角度で握れる形式。

・チャージングハンドル兼用タイプ
 ZB-60や85式高射機槍のように、持ち手にチャージングハンドルの機能を持たせて、グリップを前後させる事で初弾の装填を行う形式。

・チェーンソータイプ
 本来であれば銃床やスペードグリップが取り付けられる機関部後端にチェーンソー型のグリップを取り付けたもの。ハンドガード部の吊り下げ型フォアグリップと組み合わせ、腰撃ち射撃しやすい姿勢を作り出す。KAC(ナイツ)社が人間工学デモンストレーション用に作成した。(項目参照)


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  • 銃床のページ内の項目から独立させました。あらゆる銃器に使用されている要素の割に、小銃に関する記載しか無かったので、拳銃や機関銃に関する事項も追加しています。 -- 2023-08-08 (火) 17:01:59
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*1 実際には外観上フレームに見える部品が、インナーシャーシに取付されているグリップとも言える。

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Last-modified: 2023-10-01 (日) 20:25:10 (208d)