スミス&ウェッソン M39 / S&W Model 39 【自動拳銃】 †
S&W社が1954年に開発した、アメリカ初のダブルアクション自動拳銃。
元々、当時米軍の制式自動拳銃だったM1911A1に替わるべく開発されていたため、外観やレバー等の配置などはM1911A1に倣ったものとなっている。また作動と閉鎖機構は1911同様のブローニングタイプのショートリコイルながら、ハイパワーに倣ったカム機構によるティルトバレルとされた。一方、ダブルアクショントリガーは、ドイツのワルサー P38を元にしたもので、セイフティレバーをスライドに有するレイアウトもその名残である。
スライドは従来的なスチール製だが、フレームは軽量なアルミ合金で作られた。スライド部のマニュアルセイフティはデコッカーを兼ね、セイフティをかければ、初弾を薬室に装填したままでも安全に携行できた。また、マガジンを抜くとトリガーがロックされるマガジンセイフティも組み込まれた。
結局、米陸軍は39をM1911A1の後継として制式化することはなく、ごく少数が部隊単位で導入されるに留まった。
1955年からは民間市場で販売され、一部の銃器愛好家や専門家からは酷評を浴びたものの、警察や海軍に採用されたことで、軍と法執行機関、双方で使われる官給ピストルの草分けとなった。1970年にはダブルカラムモデル「59」が発表され、39と並び派生モデルの基礎となった。
近年では、台湾の警察特殊部隊や海軍の特殊部隊が5906のミリタリーモデルを、日本の警察のSITや一部の制服警官が3913を、同じく海上保安庁の特別警備隊が防錆加工を施した5906を制式採用している。しかし、90年代以降のグロックの席巻や、H&Kやシグのより高性能な法執行機関向け自動拳銃の登場により、世界全体から見たシェアはごく限られたものとなっている。
著名なバリエーションには、パフォーマンスセンター製のカスタムモデル(945など)や他社製カスタムの「デベルカスタム」なども知られている。
軍用のバリエーションとしては、ベトナム戦争中にSEAL専用の暗殺用拳銃として開発され、「ハッシュパピー」*1の愛称で呼ばれた「Mk.22」が存在する。サイレンサーの消音効果を高めるため、専用の9mm亜音速弾Mk.144 Mod.0が用意され、通常のセミオートマチック射撃の他、作動音をカットするため、ロックレバーでスライドを固定しての射撃が可能となっており、マガジンセイフティは除去されている。またアメリカ軍制式拳銃トライアルに提出されたモデルとして559があるが、こちらは不採用となっている。
ロングセラー銃器の常として、M39も数回のモデルチェンジが行われている。1980年には「第二世代」とされる数字3桁のシリーズに移行。当初のモデルナンバーは同社のリボルバーと同じく、仕上げの数字1桁+ベースモデル(39か59)の法則が使われたが、.45ACPモデルが登場してからはモデルナンバーにベースモデルではなく口径(つまり45)を使うなど規則が曖昧となった。
1990年代からは「第三世代」となる数字4桁シリーズに移行する。ロストワックス製法が取り入れられ、モデルナンバーは「ベースモデル/口径の数字2桁+モデルタイプ/機構の数字1桁+仕上げの数字1桁」になった。しかし、第三世代にはモデルナンバーが数字3桁(第2世代と異なり、口径+装弾数のナンバー法則)の廉価版(上掲写真の908など)のラインも含まれており、これらの複雑化したモデル名によって、ユーザーやディーラーの間では混迷を極めた。この世代からは特に、時代を経るに従うセールスの低迷と、テコ入れのための安易なマイナーチェンジモデルの乱発により、さらなるセールスと性能自体の低下をも招くという悪循環に陥いることとなった。
※各モデルの詳細はSW M39系世代別モデル表を参照
長らく39系はS&W製自動拳銃の主力製品をつとめて来たが、2005年に発表されたM&Pシリーズの販売が堅調となって以降、シリーズは次々とカタログ落ちとなり、S&Wのカスタム部門であるパフォーマンスセンター製のモデルも含め、39系はすべて販売終了となっている。
転載に関しては、転載元の転載規約に従って行ってください。