ワルサー P38(P1) / Walther P38 【自動拳銃】 †
1938年にドイツ陸軍が制式採用した自動拳銃。
第二次大戦直前、それまでドイツ陸軍はルガー P08を制式拳銃として使用していたが、作りが精巧なため生産コストが高く、戦場の様な過酷な環境で使うには耐久性に難があった。そこで来るべき大戦に備えるべく、ワルサー社に安価で耐久性に優れた新型拳銃の開発を依頼。そして1937年に完成したHP(Heerespistole)を、P38として制式採用した。
最大の特徴はPPから継承したダブルアクション機構で、大型軍用オートマチックとしては世界初の試みだった。加えてデコッカーを兼ねたマニュアルセイフティやAFPBなどを組み込み、安全性と即応性を飛躍的に高めている。
作動方式はAPから受け継いだショートリコイル&プロップアップ。銃身とスライドはM1911などのティルトバレル式(ブローニング式)ではなく、独立したロッキングラグを用いる。この方式は銃身が水平に後退するのでぶれが少なく精度が高いだけでなく、スライド内部にロッキングラグを削り込む必要がないために生産性にも優れている。
本銃は他の一般的な自動拳銃と異なり左側排莢となっている。理由は現在でも定かになっていない。
ダブルアクション機構などのために部品点数はやや多めだが、フィールドストリッピングでは、3つのアセンブリグループに分割されるモジュール構造のため小さな部品が脱落する心配がないと、整備性も十分考慮されている。
P38は第二次大戦中、ワルサー社のみならずマウザー社やブルーノ造兵廠(チェコスロバキア)などで大量生産され、約100万挺ほどが戦場に送られた。その表面仕上げにちなんで、アメリカ軍からは『グレイゴースト(灰色の幽霊)』と呼ばれ恐れられるとともに、一種の羨望の的ともなった。
だがドイツの敗色濃くなる大戦末期になると、生産力の低下や材料不足から工程の簡略化された精度の低い粗悪品が作られ始めた。これら戦時急造品は暴発の危険性が非常に高いため、兵士間では『持っているだけで危険だからP38は持つな』と忌み嫌われていたようだ。
しかし基本設計は非常に先進的なものであり、戦後の西ドイツ軍の再軍備ではP38の再生産型であるP1が制式拳銃として採用されたほか、後に発展改良型のP4やP5も作られている。
ドイツ国外では民間版のHPをスウェーデン軍が1939年に採用した(m/39)。また戦後再建中だったフランス軍においてドイツ軍が持ち込んだP38や接収したモーゼル社において再生産したP38が国産のMle1950の採用まで用いられた。ポルトガル軍では戦後型P1が1961年に採用され、2019年にグロック 17が採用されるまでの長きにわたって使用されていた。
戦後開発された各国の拳銃にも大きな影響を与えており、ダブルアクション機構をはじめ数々のメカニズムはベレッタ M92などにも引き継がれている。
日本では1971年から放映された人気アニメ『ルパン三世』の主人公ルパン三世の愛銃として登場。当時のテーマソングでもその名が歌われたため広く知られ、遊戯銃も多く作られた。
モデル | 解説 |
P38 | 1938年にナチスドイツ軍に採用された拳銃。ワルサー社、マウザー社等で製造された。木製グリップ |
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HP | P38のトライアルモデルであり民間型。ベークライト製グリップとプラスチック製グリップの二種類がある |
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P1(P38/II) | P38の戦後生産モデル。ベークライト製グリップ 初期型はスチールフレーム。後にアルミ合金フレームに変更 |
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P4 | P1の簡略・改良モデル スライドを一体形成にしたほか、マニュアルセイフティがデコッキングレバーに変更されている 西ドイツ軍に採用されたがあまり成功せず、少数の生産にとどまった |
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P38K | P38およびP4の短小モデル。西ドイツ警察特殊部隊の要望で開発された |
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P5 | 独立ページ参考 |
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