.40S&W(10mmショート)弾 / .40S&W (10mm Short) †
1989年に、S&W(スミス アンド ウェッソン)社とウィンチェスター社の共同で開発された自動拳銃用実包。
1988年、FBIは10mmオート弾の減装弾(通称「FBIロード」)を採用していたが、これにS&W、ウィンチェスター両者は疑問を抱いた。発射薬を減らすのであれば、最初から薬莢を短縮すれば、弾薬の全長もマガジンの前後幅も短縮でき、ひいてはグリップも細く、握りやすくなって、より扱いやすくなるはずと考えたのだ。
そこでS&W社のメルヴィン、ウィンチェスター社のバーセットが中心となって、10mmオートの薬莢を約3.5mm短縮した新弾薬『.40S&W』を開発したのである。
.40S&Wと10mmオートは、薬莢のサイズが異なるだけで、弾頭の直径や薬莢底部の構造は共通している。このため「10mmショート」と呼ばれることもある。
短縮されたとはいえ、薬莢全長は22mmと長めだが、弾頭が薬莢内に深く入るため、全長ではむしろ9mmパラベラム弾よりもやや短い。直径が大きい分、9mmパラベラムよりも装弾数は若干低下するが、弾薬のサイズや発射時のプレッシャーが近いため、9mm仕様の銃を大きく改変することなく容易にコンバートすることが可能*1。威力も反動も、9mmと.45ACP弾の中間で扱いやすく、ある意味、10mmオートが当初目指していた性能・性格を実現している。
当然、各方面から注目を集めた.40S&Wだったが、デビュー直後に、思わぬところでつまずくことになる。命中精度が非常に悪かったのだ。
ある実験では、S&W社の4006から発射した場合、射程50ヤードで着弾が平均15cm(最小11cm、最大20cm)もずれてしまったのである*2。「.40S&Wには重大な欠陥があるのではないか?」と疑われても仕方のない、惨憺たる結果だった。
だが、問題は弾薬ではなく、銃にあった。初期型のS&W 4006は9mm仕様の銃をわずかにアレンジしただけの言わば『手抜き銃』で、各部のメカニズムが.40S&Wに適応していなかったため、反動が無用に大きくなり、命中精度が低下していたのだ。
その後、リコイルスプリングを強化するなど対策を施された結果、銃の性能は改善、.40S&Wもめでたく名誉回復となったが、S&Wは危うく自分で自分の首を絞めるところだった。
他メーカーの銃でも、初期ロットではしばしばトラブルを生じ、また10mmオートより非力であることから、「.40 Short and Wimpy(短小で弱虫)」や「.40 Slow and Weak(遅くて弱い)」と言った蔑称で呼ばれることもあった。
しかし、様々な経験を踏まえて洗練されたカートリッジだけに完成度は高く、本来の性能を発揮し始めた後はシェアを徐々に拡大。.40S&W仕様の銃も各社から続々と発売され、中にはFN ハイパワーのようなベテラン銃からのコンバート例も見られるようになった。
SOCOM傘下の各種米軍特殊部隊でも2000年代から.40S&Wを使用するグロック 22が装備として選択可能となっている他、9mmパラベラム弾や.45ACP弾に比べてパフォーマンスを重視するコアなユーザーが多いため卓越した記録も多く、2014年にアメリカ・テキサス州オースティンで発生した銃乱射事件では、たまたま近くで2頭の馬を牽引中だったジョンソン巡査部長が、空いた片手でスミス&ウェッソン M&P 40を発砲、約100m先の犯人を一発で即死させるなどの離れ業を見せている。
現在ではアメリカの約7割の公的機関で採用されるまでに成長し、近年誕生した中ではもっとも成功した拳銃用カートリッジとされている。しかし、単価がまだ高い*3ためか、北米以外ではあまり普及していない。
全米の警察を席捲した.40S&W弾だったが、FBIによってJHPを使用した拳銃弾の殺傷力について、9mmパラベラム弾、.40S&W弾、.45ACP弾の間に大きな差異が無いと調査結果が示されており、FBIをはじめとするアメリカの警察で9mm回帰の動きが始まっている。