RSAFエンフィールド L85 (SA80) / RSAF,Enfield L85 (SA80) 【突撃銃】 †
全長 | 重量 | 口径 | 装弾数 | 連射速度 | 発射形式 | 製造国 |
785mm | 3.82kg | 5.56mm×45 | 30 | 610〜775発/分 | S/F | イギリス |
イギリス軍が1985年に制式採用したブルパップ式の突撃銃。当時イギリス陸軍の主力歩兵用小火器だったSLRおよびスターリング短機関銃を置き換えるべく、同国のエンフィールド造兵廠によって開発された。1970年代に同廠で開発されたXL64を祖とする一連の試作ブルパップ銃をベースとする。
バリエーションとしては分隊支援火器モデルのL86 LSW(Light Support Weapon)、カービンモデルのL22、.22LR弾仕様の訓練用ライフルのL98カデットが存在する。ベースとなったXL64の頃より、各種派生を前提としたシステムウェポンとして設計されており、これらは総称して「SA80 (Small Arms for the 1980s) 」と呼ばれる。
採用は大半がイギリス軍であるが、国内の警察や衛兵にも用いられている他、英連邦所属のジャマイカ・パプアニューギニアの特殊部隊に一部供与されており、経緯は不明だがボリビアの特殊部隊でも使用されている。
作動と閉鎖はAR18を基本としたショートストローク・ガスピストンとロータリーロッキングボルト。ただし、ほぼAR18のコピーだったXL60シリーズと異なり、直接の原型となったXL70シリーズ以来、ボルトキャリアを前進させるリターンスプリングとガイドロッドを中央に一本追加し、それまでの左右に2本並んだリターンアクションからはスプリングを省いてガイドロッドのみとしている。
マガジンはM16互換であるSTANAGマガジン。弾切れになるとボルトを後退位置でホールドする自動ボルトストップ機能を有し、後述のボルトリリース/キャッチを操作するか、マガジンのリロード後にコッキングハンドルを軽く引くことでリリースする。
XL70シリーズまで試作されていた左利きモデルは廃止となり、制式モデルは右利きモデルのみとなったため、コントロールの配置に関しては右利きでの使用が前提となっている。排莢は右方向のみ、セミ/フルを切り替えるセレクターとマガジンキャッチは左のみである。ボルトリリース/キャッチのみ左右に備えるが、配置と操作が左右で異なる。左側面はボタン、右側面はレバータイプで、レバー側は開状態のコッキングスロットカバーを避けるため後方寄りに配置されている。ボタン側は上から押し下げることでボルトをリリースし、コッキングハンドルを手ずから引いた状態で押し上げることでボルトをホールドオープンするが、レバー側はこの操作が上下逆転している。またセレクターとは別に、クロスボルト式のセイフティをトリガー付近に備える。
照準線の短さによる不安から4倍率固定の国産SUSATスコープを標準で備えるが、アイアンサイトを備えた着脱式のキャリングハンドルと交換可能となっている。キャリングハンドルにはリアサイトのみがM16のように固定され、フロントサイトはガスブロック上部に着脱式のものが備えられている。また、SUSAT上部には緊急用の小さなサイトが設けられている。
SUSATのレティクルは塔のようなポストが一本あるだけという独特のもの。「ジャーマンポスト」型とも呼ばれるが、一般的なそれと比べ、太い二等辺三角形型となっており、水平線も無い。また暗所ではトリチウムの発光によって視認性を確保している。
完全分解にはドライバーを要するものの、通常の清掃分解は、上下のレシーバーを繋ぐ2本のクロスピンを引き抜くだけで可能となっている。クロスピンは抜け止めが設けられレシーバーから抜け落ちないようになっている。また、ハンドガードとストックパッド、キャリングハンドルとフロントサイトは、これらを固定しているネジの抜き締めを、グリップ内に収められた付属のツールで行って着脱可能である。
バヨネットはバレル下にグリップを固定する一般的なスタイルではなく、フラッシュハイダーに被せるように、グリップを直接バレルに差す形になっている。着剣したまま発砲できるようブレードは銃口右側にオフセットされ、発砲炎を塞がないよう、グリップにはフラッシュハイダーの排炎孔に沿って穴が設けられている。
1985年からイギリスの陸・海・空軍全てで最初の生産モデルであるSA80A1(L85A1/L86A1/L22A1/L98A1)の導入が始まったが、ジャム頻度や故障率の高さから問題が続出した。
ベースとなったXL64が十分な動作信頼性を持っていたにもかかわらず、SA80A1にこうした問題が起きた背景には、さまざまな要因が絡んでいる。英国が自国の4.85mm×49弾をNATOの次期小銃弾とするよう研究を最後まで続けたため、ベルギー製のSS109がNATOの新制式弾に選定されるまで5.56mm×45弾への対応が遅れたこと。当時のイギリス国防省が強く大幅な予算削減を要求したため、一挺あたり500英ポンド程度と見込まれていた予算が一挺あたり250英ポンドまで削減されていたこと。SA80の制式化期日が迫る中、多くの問題がテストで明らかだったにも関わらずエンフィールド造兵廠スタッフが報告書の粉飾を行ったこと。1980年当時すでにエンフィールド造兵廠の将来的な民営化もしくは売却が周知されており、新たに新設される施設への異動も期待されておらず、解雇の危機にあった一般職員の士気は最悪で、品質管理が蔑ろになったこと。以上が関係している。*1
このA1の不具合についてはメディア上でも有名なものとなっている。1993年に出版された元SAS隊員アンディ・マクナブの著書「ブラヴォー・ツー・ゼロ」では、A1の初期不良の多さ以上に、SA80の設計そのものが酷評されている*2。
1990年の湾岸戦争を経た後は、様々なトラブルや50以上の欠陥を指摘する公式なレポートが発表されている。この「LANDSETレポート」とよばれる英国防省公認の文書では概ね「L85A1及びL86A1LSWは、砂塵に塗れ易い環境下では、頻繁な作動不良を起こすほど機械的な信頼性に乏しく、潤滑性に非常に欠ける」としており、欠陥については特に「マガジンキャッチは衣服に容易く引っかかってマガジンを脱落させてしまい、ファイアリングピンはフルオート射撃時には折損しやすく、連続使用に適さない」などとしている。
開発元であるエンフィールド造兵廠は1984年にロイヤルオードナンス社に買収され、1988年に民営化されたのちも1993年まで生産を担っていたが、SA80A1の改修は同社ではなく、2000年には当時同じくブリティッシュ・エアロスペース(BAe)資本下にあったH&K社が請け負った。この改修モデルがSA80A2(L85A2/L86A2/L22A2/L98A2)である*3。
多くの改良により、作動不良の回数は平均25,200発に1回と劇的に低下した。またアドオン式グレネードランチャーとしてH&K製のAG36が使用可能となった。問題となっていたセレクター等の各レバー・ボタン類の配置はそのままだが、マガジンキャッチ/リリースボタンには、誤操作防止用のリブが追加された。
更に2007年にはモジュラー化が進む米軍の装備などの影響を受け、アメリカのダニエルディフェンス社製のRASや米軍でも使用されるグリップポッド、ACOGとそれに付属するバックアップ用レッドドットサイトなど、最新のアクセサリーを追加。2011年には軽量かつ信頼性の高さで評価されているマグプル社製のAR15互換マガジンであるE-MAGが100万個調達され、従来のマガジンを全て置き換える方針で随時更新しつつある。また正式な導入時期は不明だが、グレネードランチャー用の照準器としてEOTech社のホログラフィックサイトも一部導入されている。
2016年9月には、「SA80A3」のプロトタイプが公開された。現有のSA80A2は最初に5000丁がA3へと改修され、今後も既存SA80のアップグレードの継続が予定されている。SA80シリーズは2025年以降も主力ライフルとして使用される事が決定している。
各種バリエーション †
モデル | 解説 |
L85A1 | 1985年制式採用の初期型*4。配備初期から非常に多くのトラブルを抱えていた。 |
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L85A2 | H&K社による改修型。2000年より更新開始。 主な改修点はロッキングシステムのヘッドへのエキストラクターネイル追加、ファイアリングピンの形状変更、 ガスシステム周りのクリアランス調整、コッキングハンドル形状の変更(カートディフレクター兼用とした)など。 その他、信頼性の高いスチール製マガジンや、L123A2アドオンランチャーの採用が行われた。 2007年以降は専用のRASや、SUSATスコープのトリジコン社製ACOGスコープへの更新が進められた。 |
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L85A3 | H&K社によるA2の改修型。2016年9月にプロトタイプが公開された。 主な改修点はアッパーレシーバーの再設計による信頼性の向上、レシーバー上部のウィーバーレールをピカティニーレールに換装、 プロトではハンドガード側面にHKeyスロット*5を採用していたが、生産型ではM-LOKに変更された。 |
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L86 LSW (L86A1/A2) | 分隊支援火器型。LSWはLight Support Weaponの略。 専用のバイポッドと機関部下にバーティカルグリップが追加されている。 ブレンの改良型「L4」の後継として開発されたが、その後諸問題によりFN ミニミに更新。 現在は、遠射性能と精度の高さからマークスマン・ライフルとして運用。 |
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L22A1/A2 | SA80のカービンモデル。 ハンドガードが無く、フォアグリップが取り付けられた。 L22A2はピカティニーレールを追加し、イギリス陸軍の戦車兵用装備として配備されている。 |
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L98 カデットGP(General Purpose)ライフル (L98A1/A2) | 訓練用モデル。カデットとは幼年兵・訓練兵のこと。 L98A1はガス作動が排除されているため、大型のクランク式コッキングハンドルを引いて一射ごとに排莢を行う、ストレートプル・ボルトアクションのような構造となっている。 ボルトアクションと違うのは、ボルトを前進させるリターンスプリングはそのままであること。 引き切ったハンドルから手を離せば、ボルトがバネによって前進し、マガジンから弾薬を薬室に送り込む。 後継のL98A2ではガス作動はライブで、ほぼL85A2と同じ構造だが、セミオートのみとなっている。 |
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