フラッシュハイダー / Flash hider †
発射時に銃口から生じる火炎や閃光を減らす、もしくは射手や標的の視界から遮蔽する為、銃口部に装着される部品。「フラッシュサプレッサー(Flash suppressor)」とも呼ばれる。日本語では消炎器と訳される。
火炎や閃光を減らす原理としては銃口から噴出するガスをマズルデバイスの特殊形状に通す事で、ガスの圧力と温度を下げて燃焼し辛くしている。
形状には漏斗(コーン)形状*1*2、円筒形にスリットを配置した三叉型や四叉型、その発展形であるかご型(ケージ型)等がある。
初期の機関銃には発砲炎を減らすのではなく、直接遮蔽する円盤状のデバイスなども存在した。
元々は射手側の視界に入る銃口炎を隠す(hide)ことで連射時の視認性を向上し、負担を軽減する装置(hider)であった。その後、敵から見える銃口炎を減らし、被発見率を下げる方向性へと変化していく。その用途としては「減音効果のない減音器」とも評せる。
同じく銃口に取り付けるコンペンセイターとは混同されることが多いが、それぞれの役割は全く異なり、また機構的にも別物に近いが、根元にコンペンセイター、先端にフラッシュハイダーを組み合わせたり、フラッシュハイダーの漏斗形状の側面に開口部を設けてコンペンセイターとしても機能させるようにした製品もある*3。
減音器より遥かに小型かつ耐久性も高く、現代では軍用として普及している。減音器や他のマズルデバイスと交換できるよう、マズルスレッド(ねじ切り)を介して装着されるのが定石であるが、製品によってはフラッシュハイダーそのものを減音器の取付アダプターとして着脱の手間を省いているものもある。ライフルグレネードの発射を想定する場合は、当然ながらその装着に対応した形状で設計されている。
第一次世界大戦において旧来の単発式小銃よりも高い連発能力を持つボルトアクション小銃、さらには持続射撃さえ可能となった重機関銃が大規模に配備運用され、その火力の凄まじさだけでなく、その連射力によりマズルフラッシュで位置を露呈してしまう危険性が初めて世界に大きく認知された。
この脆弱性に対抗すべく機関銃の発砲炎を抑制する工夫が急速に考案され、ホチキスM1914などでは「牛追い型」と呼ばれる、逆向きにしたちり取りのような形状により発砲炎を丸ごと下に吐き出すフラッシュハイダーなども作られた。*4
当時、最も効果が高かったのはいわゆる「漏斗型(コーン型)」のフラッシュハイダーである。これはドイツを中心にMG 08/15やシュワルツローゼ機関銃などに開発され効果を発揮し、他の重機関銃にも普及していった。
第一次世界大戦後、発砲炎が如何に戦場で不利に働くかを痛感した世界各国は発砲炎抑制の研究に努めたが、アメリカ以外の多くの国では無煙火薬のような劇的な発展があったこともあり、「火薬自体を改良すべき」との意見が多く、フラッシュハイダーの改良はあまり進められなかった。
一方、余力・技術力のあったアメリカではフラッシュハイダー自体の改良を視野に入れ、当時の制式機関銃M1917向けにM1923フラッシュハイダーなどの多くの新構造のフラッシュハイダーを作成した。
しかし、これらのモデルは「隙間にススが詰まりすぐ使えなくなる」「連続射撃時に飛んで行ってしまう」など問題点が多く、最終的には従来的な漏斗型のフラッシュハイダーを採用することとなる。*5
第二次世界大戦の頃にはSMLE No. 5 ジャングルカービンやボーイズ対戦車ライフルなど小銃でも採用され始め、当時登場したばかりの暗視装置を使用するM3カービンでは発射時の火炎や閃光を抑える事で射点の暴露を防ぎ、そして暗視装置の焼き付きを防止するために同様に漏斗形状のフラッシュサプレッサーが装備されることになったが、小銃用としては漏斗形状が銃剣やライフルグレネードの使用に支障が出やすい事から配備は暗視装置の使用時か狙撃銃など一部に留まった。
第二次世界大戦後、二大大国となったアメリカ・ソ連では共にフラッシュハイダーの改良が進められた。
1950年代のアメリカでは円筒側面に複数のスリットを配置したかご型(ケージ型)のフラッシュハイダーがM14で採用された。さらに1960年代にはより小型ながら消炎効果の高い「三叉型」タイプのフラッシュハイダーが開発される。これは弾薬やバレル長にもよるが、発砲炎体積を90%以上も削減するほど消炎効果が高い設計だった。このタイプはその後アメリカではM16で採用されるが、この設計は先端が開いているため、草木などに頻繁に引っ掛かるという欠点があったため、三叉型の先端を閉じ、またフラッシュハイダーの内面に漏斗型を採用する事で、漏斗とスリットの両方の消炎効果を利用した形式が発展形として開発され、M16A1で採用された。
一方、ソ連でも同様に、USSR AKMの暗視装置着用モデルAKMLやPKでM14と同様に単純なかご型を採用した後、AKMの後継であるAK74ではフラッシュハイダーではなくマズルブレーキを採用したものの、PKの改良型であるPKMではM16A1と同様に漏斗型とかご型を組み合わせたフラッシュハイダーが採用された。
一方、車載機関銃や各種機関砲などでは小銃のように銃剣やライフルグレネードなどを運用するような事が無く*6寸法にそれほど制約が無い事、発砲炎だけでなく衝撃波による周辺の二次被害を防ぐ目的などで、現代でも漏斗型が採用されているものも多く、三叉型やケージ型のフラッシュハイダーと競合している。また砲口ではなく砲尾側であるが、無反動砲ではバックブラストの閃光により射点が暴露するのを抑制する為にFFV AT4など漏斗型を採用している例が多い。