豊和工業 89式5.56mm小銃 【突撃銃】 †
モデル | 全長(折畳時) | 重量 | 口径 | 装弾数 | 連射速度 | 発射形式 | 製造国 |
固定銃床式 | 920mm | 3.5kg | 5.56mm×45 | 20/30 | 750発/分 | S/3/F | 日本 |
折曲銃床式 | 920mm(670mm) |
豊和工業が、かつてOEM生産していたAR18を参考に、1966年から「HRxx(xxは番号)」の名で開発を進めていた突撃銃。陸上自衛隊の旧式化した64式小銃の後継として、最終試作となる「HR16」が「89式」として1989年に採用された。
公募により「BUDDY(相棒)」という愛称が付けられたが、現場でその名が呼ばれる事はなく、単純に「ハチキュー」と呼ばれているようだ。
使用弾を64式小銃の7.62mm×51減装弾から、日本独自の「89式実包」と呼ばれる、NATO標準弾薬であるSS109と同等レベルのものへと変更*1。弾倉もM16の物が共用可能で、元となったAR18の主要部品の流用も可能である。弾倉は20連と30連のものが用意されており、普通科など戦闘職種では30連弾倉が用いられ、後方職種のほか空挺など、コンパクトさが要求される部隊には20連弾倉が支給されている。弾倉が空になるとボルトを後退位置に留めるホールドオープン機構も備えており、コッキングハンドルを軽く引くことでリリースする。
銃床はソリッドな固定ストックを標準とし、アルミ合金のチューブで構成された折り畳みストックモデルが限定的に配備されている。前者は頬当てした際にサイトを覗きやすいよう左側面が凹状にえぐれており、右利き射手前提の左右非対称な形状となっている。
ロワーレシーバーのヒンジピンに強度的な問題があるものの、銃床やグリップは特殊な強化樹脂で形成され64式小銃に比べて1kg近い軽量化を実現している。部品点数は標準的な突撃銃としてはやや多いが、64式と比べて約10%減少し、問題だった整備性が向上した。また、銃口部下部には89式多用途銃剣が装着可能になっている。銃口のマズルデバイスはやや特異な形状となっており、フラッシュハイダーとコンペンセイターの両方の効果を持つ。ちなみにアメリカの銃器アクセサリーメーカーのSTRIKE INDUSTRIESからは、89式小銃のものを模したAR15用フラッシュハイダーが「J-COMP」の商品名でコピー生産されており、高い消炎効果と反動抑制効果を併せ持っていると比較検証結果が出ている*2。
発射形式はセミ、フル、3点バーストの三種類。セレクターレバー表示は64式小銃から受け継いだ「ア/タ/レ(安全/単発/連射)」に「3」を追加したものとなっている(切り替え順序は「ア⇔レ⇔3⇔タ」)。セレクターシステムはユニット式になっており、取り外すことでセミオートもしくはフルオートのみとすることも可能だ。このセレクターレバーは匍匐前進の際に誤って解除されないよう右側についており、操作する際はグリップから一旦離した右手でレバーを保持するよう指導・訓練される。イラク派遣においてはセレクターレバーがアンビ化されたが*3、帰国後は元に戻された。しかし隊員からの要望により、2007年度から左セレクターレバーの標準化が決定し、順次装備が施されている。
イラク派遣直前にアメリカ国内で行われた実動訓練においては、経験豊富なアメリカ軍兵士から高い命中精度や耐久性、バイポッドの操作性などを高く評価されたというが、64式小銃と同様、実戦での運用は皆無であり、その実力は未知数というのが実際である。また、需要が自衛隊と日本国内の法執行機関に限られ、生産が極めて限定的であるために非常に高額な銃となっている。
元は北部方面隊や富士教導隊に優先的に配備されていたが、9.11テロや不審船事件などといった国際情勢の変化により、陸自の第一線部隊だけでなく、警察庁のSATや海上保安庁の特殊警備隊(SST)、海上自衛隊の特別警備隊(SBU)に、折り畳み銃床モデルが配備されている。
平成20年度には防衛省が調達方針を変更し20,005丁の一括調達を実施している。これにより陸自のほとんどの前線部隊に89式が配備できたようであるが、一括調達の影響か、21年度には1丁も調達されなかったようだ。
さらに、89式を装備した陸自の各部隊では、有事に懸念される市街地戦や対ゲリラ戦に対応するべく、取り回しを容易にするためのバーティカルグリップやダットサイトなどの各種デバイスが取り付けられるよう、部隊レベルながら自費もしくは部隊予算で改修が進んでいる。
2006年には本銃用のライフルグレネード、06式小銃てき弾も採用されている。
2006年7月にはトイガンメーカーの東京マルイから本銃の電動エアソフトガンが発売されているが、一般発売に先駆けて一部の仕様変更(実銃と同じ重量を得るためのウエイト増加、各部品の強化、実銃と区別するためのペイント追加など)が施された訓練用モデルが自衛隊に納入され、CQB訓練用として使われている。
なお、フィクションではカービン化したモデルが登場しているが、現実にも89式の開発途上で不採用ながら、短銃身のカービンモデルが試作されている。
2000年代からは「先進軽量化小銃」の名称でカービンモデルが開発・研究され、レールドハンドガードなどを備えたモックアップモデルが何度か展示されていた。その成果であるHOWA5.56は、最終候補となったHK416、SCAR-Lと共にトライアルにかけられ、2019年12月に89式の後継として採用された*4。翌年の2020年5月には「20式5.56mm小銃」として制式モデルが報道公開されている*5。
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