エンフィールド ステン / RSAF,Enfield STEN 【短機関銃】 †
モデル | 全長(伸長時) | 重量 | 口径 | 装弾数 | 発射形式 | 製造国 |
Mk.I | 883mm | 3.88kg | 9mm×19 | 32/50 | S/F | イギリス |
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Mk.II | 762mm | 3.02kg | 9mm×19 | 32/50 | S/F | イギリス カナダ ドイツ ポーランド |
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Mk.III | 762mm | 3.24kg | 9mm×19 | 32/50 | S/F | イギリス カナダ |
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Mk.IV | 442(687)mm | 3.61kg | 9mm×19 | 32/50 | S/F | イギリス |
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Mk.V | 762mm | 3.86kg | 9mm×19 | 32/50 | S/F | イギリス |
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MP3008 | 794mm | 2.95kg | 9mm×19 | 32 | F | ドイツ |
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ザギM91 | 565(850)mm | 3.41kg | 9mm×19 | 32 | F | クロアチア |
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ブリスカヴィカ | 556(730)mm | 3.22kg | 9mm×19 | 32 | F | ポーランド |
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イギリスは第一次大戦の最中より短機関銃に興味を示しており、戦間期には各国の短機関銃を取寄せて各種の試験や研究を行なっていた。しかし、この研究もまだ途上という時点で第二次大戦中が勃発。イギリスは急遽、アメリカからトンプソン短機関銃などの輸入や、ドイツのMP28をデッドコピーしたランチェスター短機関銃の採用を決定する。
しかし、この時点で既にイギリス全軍の需要を満たすには不足が明らかであったのに、これに前後してイギリス陸軍が1940年のダンケルク撤退戦で相当数の兵器を放棄したことが追い討ちを掛けてしまった。イギリス陸軍のあらゆる兵器が不足する事態に陥り、各工廠の生産計画は逼迫し、生産に手間が掛かるランチェスター短機関銃をイギリス全軍の需要を満たせるほど生産する余裕が完全に消失してしまったのだ。
このような事態を解決すべく、エンフィールド造兵廠主導のもとBSA(バーミンガム・スモール・アームズ)社のシェパード技師、ターピン技師両名の手によって開発、1941年に制式採用されたのが「9mm STEN Machine Carbine, Mark 1」ことステン短機関銃である。「STEN」とは両技師の頭文字[S・T]とエンフィールド造兵廠の略名[EN]を組み合わせたものである。
作動はオープンボルトからのシンプルブローバックで、クロスボルト式のボタンでセミ/フルを切り替える。セイフティとして、コッキングノブをスロット脇の切り欠きに引っ掛けてホールドオープンさせておく仕組みとなっていた。マガジンを外してロックを解くとマガジンハウジングと一体のポートカバーを回して、排莢孔をふさぐこともできた。合わせて、コッキングノブのセイフティ操作をしておけばコッキングスロットをボルトがふさぐので、携行・運搬のさいに異物の侵入を防ぐごとができた。
ステンは生産性が徹底的に重視され、パイプ鋼材そのままのレシーバーや簡素なトリガーメカニズムを採用したことから、金属加工品の製造できるどんな工場でも生産可能で、ラインズ・ブラザーズという玩具メーカー*1の工場でも製造される程であった。Mk.Iでは木製先台や折り畳み式フォアグリップなどを有していたが、Mk.IIではこれらも廃するほどの簡素化が図られた。
さらに部品の一体化を推し進めて、更なる生産性向上が図られたMk.IIIが作られているが、簡素化が過剰だったせいか不良が続発。このために殆どがイギリス軍に使われること無くMk.IIよりも早くに生産中止となり、残りの在庫は後方で保管されるか空中投下コンテナに詰め込まれてレジスタンスらへばら撒かれた。
ステンは連合国陣営に図面が供与され、カナダとニュージーランドでも生産されたが、枢軸側に占領された各国のレジスタンスらによって密造も行われた。例えばデンマークでは、占領下のマドセン社の工場から鹵獲したスオミ M1931用のバレルをコペンハーゲンの市電修理工場に持ち込み、ステンタイプのレシーバーと合体させ、抵抗活動に使用している。
また、敵国ドイツにおいても、鹵獲品をはじめとするステンガンがドイツ軍で多数使用された。大戦末期にはマウザー社でゲレート・ポツダムの名でコピー製造されたMk.IIが後方攪乱に使用され、終戦直前に作られたコピー銃MP3008は、フォルクスシュトゥルムトルッペ*2に供給されている。
ステンの派生型に、Mk.IIにサイレンサーを装着したMk.IISと、Mk.Vにサイレンサーを装着したMk.VIがある。共にイギリスが指揮した数々の特殊作戦で活躍し、これに注目したアメリカやオーストラリアも自国の特殊部隊にMk.IIS及びMk.VIを配備させる事となった。
第二次大戦後、英軍が装備するステン短機関銃は、1950年代には後継のスターリング短機関銃に更新されていったものの、特殊作戦用のMk.IIS及びMk.VIは、スターリングMk.V(L34A1)*3が登場する1970年代までの長きに渡って現役であった。また戦中、国外の様々な国に渡ったステン短機関銃は、第二次大戦後も朝鮮戦争やベトナム戦争、中東戦争や印パ戦争などで敵味方双方で使われた。
なお、ステン短機関銃において有名な数々の駄銃伝説であるが、その殆どが、あらゆる工業製品に付き物の初期生産品における不良や、簡素化の進みすぎたMk.III、レジスタンスらによって密造された粗悪なステンによって生まれた不幸な話である。さらに付け足すとすれば、簡素化し過ぎて見るからに安物じみた外見によるイメージも多分にあったと思われる。
ただし、設計に起因する問題もあった。当時の他の短機関銃も同様だが、コッキングスロットは異物の侵入に対し無防備で、セイフティ操作を欠くと途端に故障を誘発し、装填済みのマガジンを差したままコッキングせずにおくと、落下などで後部から強い衝撃が加わったさいに慣性によってボルトが前後し暴発を起こすことがあった。マガジンの弾上がりの悪さも定評があり、後継のスターリングのマガジンでは形状を湾曲させ、補強リブやガイドローラー付きマガジンフォロワーなど多数の対策が盛り込まれている。
一方、これらの話とは対照的に、戦後も長く運用された実績を裏付ける話もある。イギリスが北アフリカ戦線で実施した評価試験では、ステンMk.IIはあらゆる要素においてトンプソン短機関銃よりも優れ、特に劣悪な環境に耐え、集弾性も良いという結果であった。しかしながら外見によるイメージは最後まで払底される事は叶わなかった。
各種バリエーション †
外観 | モデル | 特徴 |
| Mk.I | 最初期モデル。フォールディングフォアグリップ装着 |
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| Mk.II | Mk.Iの簡易型で、最も生産されたモデル。大戦末期にマウザー社でも製造された |
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| Mk.IIS | Mk.IIにサイレンサーを装着したモデル。特殊部隊向け |
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| Mk.III | Mk.IIにプレス加工を施し、より生産性を向上させたモデル 最もパーツ数が少なく、最も動作不良が多い |
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| Mk.IV | Mk.IIベースにフォールディングストックを装着した、空挺部隊向けモデル |
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| Mk.V | 最終モデル。木製のグリップ・ストックが採用され、着剣装置も装備された |
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| Mk.VI | MK.Vにサイレンサーを装着したモデル。着剣装置廃止 |
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| MP3008 | ドイツ製コピー。MP40の弾倉が流用可能 |
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| オーステン | オーストラリアの独自改良型。フォールディングストック、独立グリップ、フォアグリップを装備 |
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| ザギM91 | クロアチア製独自改良モデル。レシーバーはポリマーフレーム製 ピストルグリップ、引き出し式ストックを装備。MP40の弾倉を流用 放熱バレルジャケット付きノーマルモデルと、サプレッサー装着モデルがある “ザギ(Zagi)”の名称は、第14回夏季ユニバーシアード*4のマスコットキャラ(リス)の名前に由来 |
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| ブリスカヴィカ | 占領下ポーランドの地下で製造された独自改良型 MP40を参考にしたフォールディングストックとグリップを装備。MP40の弾倉を流用する |
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外部リンク †
・Sten ムービー