H&K P9S 【自動拳銃】 †
H&K社が1970年に開発したダブルアクションピストル。
「S」は「Spannabzug」の頭文字で、ダブルアクショントリガーのことを意味する。前年にシングルアクショントリガーの「P9」を開発していたことから来た名称だが、P9は発売後間も無くカタログ落ちしたため、本銃と比べてその存在はほとんど知られていない。
同社の主力モデルであったG3やMP5と同じローラーロッキングシステムが組み込まれ、バレルが固定されている。このためティルトバレル方式よりも命中精度が優れている。
フレームの一部(フレーム前面下部からトリガーガード、グリップのフロントストラップまで一体成型)が開発当時としては珍しいプラスチック製で、量産された拳銃でプラスチックをグリップ以外に使用した最初の事例となっている(試作品も含めるなら1963年にマカロフのベークライトフレームモデル・TKB-023が試作されている)。
コンベンショナルダブルアクションながら、ハンマーは内蔵式となっている。このため、ハンマーを手動でコックしてシングルアクションで発砲するためのハンマーコッキングレバーが、フレームの左側面に設けられている。
スライド左側面のマニュアルセイフティは、トリガーやハンマーをロックするのではなく、内部のファイアリングピンをロックする仕組みである。これにより本銃は、セイフONでトリガーを引けば、ハンマーがファイアリングピンを勢いよく叩いてデコッキングされるという、射手をヒヤヒヤとさせるデコック方法となっている。
9mm仕様以外にも.45ACPや.30ルガー弾仕様のモデルが存在する。ドイツ警察の一部で採用された他、サイレンサーを装着できるよう銃身を延長した.45ACPモデルが、アメリカ海軍特殊部隊・SEALで少数使用されたと言われる。
いかんせん、いろいろと凝った設計の割にはセールスポイントがはっきりしない銃だった。生産は1978年頃まで行われていたらしいが、現在はどのモデルもH&K社のカタログに掲載されていない(ただし、ギリシャではEP9Sの名でライセンス生産が継続しているらしい)。
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