暗視装置 / Night vision

 第二次世界大戦末期に実用化された、肉眼で見通せない暗所を、光像を増幅して視覚化する光学装置。
 個人携行型のものは「暗視鏡」「暗視眼鏡」「暗視スコープ」などとも呼ばれるが、現在は兵士の目に直接装着するゴーグルタイプ(Night Vision goggles)など、様々な形態のものが実用化されている。
 ちなみに自衛隊では「暗視装置」の名称で装備化されている。

 歩兵用においては、ヘッドバンドやヘルメットを介して目の前に直接装置を置くものと、専用マウント・ピカティニーレールなどを介して銃火器に直接搭載する光学照準器型の二種類に大別される。
 ヘルメットなどを介すものは、両目にそれぞれ暗視装置を置く「双眼型」と片目だけに置く「単眼型」に分けられる。双眼型では立体的に映像を捉えることが出来るが、大きく嵩張り重い。単眼型は比較的軽量ではあるが、立体的に映像を捉えにくいという特徴がある。このため前者は操縦手などに用いられ、後者は歩兵に主に用いられる。視界を広げるべく、映画『ゼロ・ダーク・サーティ』で使用され有名となったL-3・GPNVG-18のような、蜘蛛の目の様なデザインの「4眼」の製品も登場している。
 銃に搭載されるものは、暗視機能のみのものと、照準機能や望遠機能を有するハイブリッドタイプの2種がある。後者はかなり大型でかさばるため、必要なときだけ従来のスコープダットサイトを組み合わせて使える暗視機能のみの軽便なタイプと、ニッチを棲み分けている。 

 フィクションでは、目潰しをくらって一網打尽にされたりするためのガジェットとしても古くからお馴染みだが、強烈な光を受けても、装置が故障するか、安全装置によって停止するだけで、使用者の視力が奪われる(失明する)ということはない*1

開発世代

 暗視装置は軍事目的で効果を発揮するため、販売や輸出入には様々な制限が存在する。
 もっとも新しい第3世代には特に強い規制が敷かれており、基本的に官公庁のみに販売されている機密製品となっている。
 このため、民間では第1、第2世代も今だ現役である。
 

第0世代

 「アクティブ(能動式)赤外線暗視装置」と呼ばれるたぐいのもので、赤外線投光機と、目に見えない赤外線を可視光線に偏光するフィルターを装着した光学機器がセットのもの。
 第二次大戦末期にドイツ軍が世界で初めて実用化したのもこのタイプ。当時は電源含め10kgを超える大仰な装置だった。
 その後小型化が進み、旧ソビエトなどではゴーグルタイプのものも開発されたが、別に投光器を必要とする欠点は変わらなかった。
 相手がパッシブ(受動)な暗視装置を持っていた場合、赤外線投光機がハッキリと視認されて秘匿性どころか優位性も失われてしまうことから、軍事用としては早期に廃れた。しかし、車載用としては陸上自衛隊の74式戦車などに残っている例もある。
 

第1世代

 光増幅タイプのパッシブ式暗視鏡で、星明りのような小さな光源を増幅して可視化するところから「スターライトスコープ」とも呼ばれる。
 主な欠点は光源が一切無い全くの暗闇では使用できないこと*2と、強すぎる光源があると内部の増幅管がオーバーロードしてしまうことなど。
 ベトナム戦争でアメリカ軍が使用したのが最初。現在はさらに小型化が進み、旧式化して機密指定を解除されていることから、もっとも安価なナイトビジョンとして民間向けに市販もされている。
 また、民間では光増幅管にセラミックスを用いた「コア世代」と呼ばれるものがあり、第二世代あるいはそれ以上とも言われる性能を持つものもあるが、便宜上第一世代に分類されており、規制されていない。

第2世代

 マイクロチャンネルプレート(MCP)を搭載することで光増幅率が第1世代より向上している。ただし、高速で移動する物体の結像が苦手である。
 現在ではこの第2世代までであれば民間人でも購入可能だが、当然第1世代より高価となる。第3世代の入手が困難な民間市場では「第2.5世代」と呼ばれるナイトビジョンが出回っているが厳密な定義はなく、「ハイエンドなもの」や「赤外線照射装置を備えるもの」など曖昧である。

第3世代

 MCPにヒ化ガリウム素子を用いることで検知できる波長が大幅に広がって近赤外線域もカバーできるようになり、イオンバリアフィルムを光増幅管に搭載することで寿命と光増幅率を大幅に高めている。
 第二世代以下では映される映像に「ブラックスポット(黒い欠像点)」が観られるが、第三世代ではほとんどなくなっている。一部ではサーマルビジョンを併用する製品が登場している。

サーマルビジョン(サーマルイメージャー)について

 赤外線を増幅・可視化するという原理は第0世代のパッシブ式暗視装置と同じだが、遠赤外線を利用している点で異なる。物体は多かれ少なかれ遠赤外線(つまりは熱)を放射しているため、その熱分布を視覚化することで光像を得ることができる。
 この原理ゆえ、赤外線投光機などの光源が不要なうえ、自然光源の無い全くの暗闇でも使用可能。また、照明弾や投光機などの強い光源が視界にあっても光像が損なわれない強みをもつ。一方で温度差が少ない場所を苦手としており、全体的に解像度が光増幅するナイトビジョンに劣っている。
 サーマルビジョンと第三世代のナイトビジョンと組み合わせた「フュージョンナイトビジョン」と呼ばれるものも存在している。光増幅像と熱源像を重ね合わせることで、完全な暗所における補完及び目標発見の補助としている。
 熱源の輪郭のみを表示することでより自然な映像を生成する「アウトラインモード」と呼ばれる機能を持つ製品も登場している。

 かつては遠赤外線センサーを極低温に冷却しなければならず、そのための冷却装置がかさばるため、小型化が困難だった。
 そのため、車載型やヘリ搭載型は比較的早く実用化されていた一方、歩兵携行型の小型の装置は、冷却の必要のない受光素子が開発されるまで待たなければならなかった。

 実物はともかく、存在と知識が広く知られるにつれて、現在ではサーマルビジョンもメディア作品にも数多く登場している。ただし、中には映像的な『演出』が加えられているものもある。
 例えば、『プレデター』の生来的視覚としてもお馴染みだが、赤外線カメラの映像としてもよく紹介されるあの温度の低い部分が青、高い部分が赤となるイメージは、判りやすく熱分布ごとにあとから色づけされたもの。旧世代のそれと同様、本来のサーマルビジョンは白黒などのモノトーンの濃淡で光像を投影する。
 また、一部のメディア作品(『ロボコップ』や『ブルーサンダー』など)では建造物の壁越しにサーマルビジョンで人影をとらえるシーンが見られるが、実際には人体から発せられる遠赤外線は微弱で、コンクリートの壁越しに捉えることは非常に困難とされている。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 車載用などの例もあるので、項目名は『暗視装置』の方が適当じゃないですか? 暗視鏡、暗視眼鏡などなど、日本語だけでいくつもの呼称があるので、あくまでも個人的意見ですが。 -- MA-08S? 2009-12-05 (土) 21:22:29
  • なるほどと思いましたので、ズバッとリンク名変更しました。 -- dan? 2009-12-12 (土) 01:19:43
  • 9万円で携帯型赤外線暗視装置売ってました。 -- 2012-10-11 (木) 17:34:13
  • アクティブ式は1世代以前の物だし第〜世代ってのはスターライトスコープの中の区分け
    サーマルも別口
    もし独自の区分けで作ってるなら米軍やITTの定める区分けと違うことを明記した方が良い

    勘違いする人増えるよ -- 2013-02-22 (金) 15:56:52
  • 先月、放送されていた名探偵コナンの劇場版で、ケビンが使っていたのは、外見的には第三世代であっていますでしょうか? -- 2015-05-03 (日) 16:31:46
  • 言葉遊びというか日本語の定義の話になってしまうのですが『熱線画像装置』(サーマルイメージャー)という表現は暗視装置かサーマルビジョン、どちらに該当するでしょうか? 暗視装置は昼間や霧(濃い煙)の中でも普通に使用されているそうなので、解説文や日本での理解とは異なっているというか、事実上のズレが生じていますよね? 生身の人間が使用するものだけでなく、車載装備品にも当てはまる話なのでココで質問するのはおかしいのかもしれませんが‥‥ -- 2022-12-12 (月) 18:36:37
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*1 人間の眼(網膜)がダメージを受けるのは、直射日光を長時間、あるいはスコープを通して直視した場合、あるいはレーザーサイトなどのレーザー光が直接、眼に入った場合などである。
*2 このような状況では第0世代のように赤外線ライトを使用することもある。

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Last-modified: 2023-11-19 (日) 01:06:19 (159d)