ステルス / Stealth †
2005年、アメリカ映画
監督:ロブ・コーエン
・ストーリー
アメリカ海軍が極秘裏に開発した超音速ステルス戦闘機F/A-37“タロン”。400人以上の候補の中から選抜されたベン・ギャノン、カーラ・ウェイド、ヘンリー・パーセルの3名は実戦配備に備えて訓練とテストを繰り返してきた。
地上基地でのプログラムを終了し、いよいよ空母艦上での運用試験に移行する段になり、高揚する3人に、計画の責任者カミングス大佐は唐突に、人工知能・EDI(エディ)を搭載した無人ステルス機を「4人目」として加えると告げた。
軋轢を生じながらも4機でミッションをこなしていくタロンチームだったが、落雷事故をきっかけにEDIが暴走。ロシアへの攻撃を独断で開始した。第3次大戦につながりかねない未曾有の危機を防ぐため、3人のタロンチームはEDIの阻止を試みるが、一人は「マニューバ・キル」によって墜落、もう一人も北朝鮮領内に不時着してしまう。最後に残されたベンは、辛くもEDIの制御に成功し、アラスカへと脱出するが、既にタロン、EDI計画を失敗と判断したカミングスとアメリカ軍、政府は、乗員を含めた一切を隠蔽、抹殺すると決定していた。
味方からも裏切られたベンは、孤立無援の中、EDIとともに北朝鮮に取り残された仲間の救出に向かった―――。
・解説
近未来を舞台とした超音速ステルス戦闘機の活躍を描いたミリタリー・アクション。純粋な娯楽作品であり、「主役」の戦闘機の性能、設定が非現実的な点(後述)を挙げるまでもなく、リアリティよりはアクション性を重視した作りとなっている*1。
とは言え、主人公たちの会話、葛藤から「(過剰に進歩したテクノロジーで)自ら血を流さず、相手の犠牲のみ強いるのは、安易な力の行使につながらないか?」と考えさせられる場面もある。
なお、劇中では女性パイロットが登場するが、世界的に見ても女性のジェット戦闘機パイロットは非常に少なく、特にアメリカ海軍ではつい最近まで艦上戦闘機の女性パイロットは存在しなかった*2。本作のヒロイン、カーラ・ウェイド大尉のモデルは、米海軍初の艦上戦闘機パイロット、カーラ・ハルトグリーン中尉と思われるが、1994年に着艦に失敗して殉職している。
奇しくも(?)、ハルトグリーン中尉が殉職したのは、本作でも登場するUSSエイブラハム・リンカーン艦上であった。
本作の撮影に当たってアメリカ海軍が協力していたため、撮影中のスチール写真など数多くの画像データが、現在でもウィキメディア・コモンズなどで多数公開されている*3。
また、意外にもアメリカの娯楽映画では、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が明確に「敵国」として描かれた初の作品でもある*4。内情が伝わらない国だけに、北朝鮮内の描写に当たっては朝鮮戦争当時の資料などが参考にされたと思われ、軍はまだしも、一般民衆の服装などが異様に古くさいなど、違和感がある*5。
・F/A-37“タロン”
アメリカ海軍が極秘裏に開発したステルス戦闘機。艦上(空母上)で運用されるため、発艦時にはカタパルト、着艦時にはアレスティング・フックを使用するが、リフトファンを使ってのVTOL(垂直離着陸)も可能。形態は前進翼機だが、可変翼となっており、高速飛行の際は主翼が前進してデルタ翼となる*6。エンジンはツイン・ハイブリッド・スクラムジェットターボ。最高速度はマッハ4。ステルス性を重視し、各種武装はウェポンベイ内に収容する。
非常に高性能の戦闘機だが、開発目的と主要な攻撃目標は制空戦闘ではなく、テロリスト、武装勢力などの地上目標である。この点では、実在のF-22などよりも、(本作の公開より後の計画だが)地球上のあらゆる目標を1時間以内に攻撃できるとしたPGS(Prompt Global Strike)計画と性格が似ている。
・E.D.I
エクストリーム・ディープ・インヴェーダー(Extreme Deep Invader;超深部侵入機)の略。作中では、タロン計画の「本命」と位置づけられていた様子が伺えるが、他のパイロットからの受けは悪く、半ば侮辱的に「ティンマン」(ブリキ男、ブリキの兵隊)のコールサインで呼ばれていた。
艦上運用を前提としているが、カタパルトは使用せず、VTOLで離陸、着艦はアレスティング・フックを使用する*7。形態はデルタ翼機だが、翼が弾性を持っており、速度、機動に合わせて翼面が変形する。
無人機だが、パイロットシートが用意されており、有人での飛行も可能だった。