ローラーロッキングは銃器の自動装填機構に用いられる薬室の閉鎖方式の一つ。ショートリコイルもしくはディレードブローバックの作動機構と組み合わされる。
ドイツのMG42に採用された閉鎖機構で、ボルト(遊底)の左右にせり出したローラーによって、バレル(銃身)とボルトは完全にロックされており、発砲の反動によってバレルが一定量後退(ショートリコイル)すると、ローラーがボルトに押し込まれ、ロックが開放される。
このMG42の開発過程で、バレルが後退しきる前にロックが外れてしまう現象が見られ、これをヒントに、より簡便な機構としてローラーロックを利用したディレードブローバックが開発された*1。ちなみに、MG42のショートリコイル・ローラーロッキングの機構は、チェコのCZ社が自動拳銃のCZ52でよく似た機構を採用している。
ディレードブローバック型では、バレルとボルトは完全にはロックされておらず、ローラーによって緩やかに結合されているのみである。弾薬の発射後、圧力によってボルトは後退を始めるが、ローラーの摩擦抵抗によって薬室はすぐには開放されない。銃口から弾丸が飛び出し、発射ガスと圧力が十分に逃げたところでローラーがボルト内に押し込められ、ボルトが完全に後退して薬莢が排出される。
ディレードブローバック型は第2次大戦中からドイツで開発が進められていたが、実用となったのは戦後、スペインのセトメ モデロAからである。後にセトメライフルの発展型であるG3を始めとして、長らくH&K社製銃器の基幹設計となり、同社は自動拳銃のP9Sにも採用している。俗にローラーロッキングと言えば、このH&K社のディレードブローバック型を示すことが多い。
ローラーロッキングは、広く採用されているガスオペレーション機構と異なり、ボルトを駆動させる長く重いロッドやバレルと平行するガスチューブが不要なため、フロント回りをシンプルかつ重量を低減できる。これにより(リコイル作動で無い限り)フリーフローティングバレルとすることも可能だ。ローラーの駆動がボルトの後退エネルギーを吸収するため、反動もある程度抑えられる。
こうした利点から、セミオート、フルオート射撃ともに、高い命中精度を保つことができるとされ、H&K社が製造するG3ファミリーはその点に定評がある。PSG1やMSG90、MP5などの派生型が、GSG9やSEALなどの名高い特殊部隊で使用されている。ドイツ軍でもG28が採用されるまで、旧主力歩兵銃であったG3がマークスマンライフルとして転用されていた*2。MP5は、それまでの「安価で軽便な携行自動火器」という位置づけを超えた短機関銃として、非常に高価ながら、取り回しのよい「簡易狙撃銃」として軍・法執行機関で広く使用されている。
一方で、構造が複雑で高い工作精度を必要とする分、日々のメンテナンスはともかく、製造・修理コストが高い。
また、ディレードブローバック型では実質ロックを行っていないため、薬室の開放スピードがガスオペレーションよりも速い。ボルトの後退が始まったとき、ガス圧が充分に下がっていないと、空薬莢が薬室内に張り付いたままであるため、ボルトが薬莢を無理矢理引き抜こうとして引きちぎってしまう、いわゆる「薬莢切れ」が起きる。使用者がレギュレーター(調整子)でガス圧をそのつど調整することもできないため、装薬量の違いやメーカー差異、炸薬の劣化といった腔圧(発射薬燃焼圧力)のバラつきに対して、ローラーと噛み合うロッキングピースの傾斜面を調整するなどの設計変更以外に対応することができない。
G3系ではこの薬莢切れを防ぐため、薬室内にガス抜き用のフルートが設けられているが、それでも、5.56mmNATO弾は、より装薬量や口径の大きい7.62mmNATO弾よりも腔圧が高いため*3、FN社が開発した新型5.56mmNATO(SS109)に対応するさいは、HK33の改修*4に苦慮したという*5。こうしたことから、燃焼速度の速い高圧カートリッジに、ディレードブローバック型のローラーロッキングは向かないとされる。
こうした複雑な機構で高い性能を発揮しているのは、H&K社の優れた工作精度とインターフェイス設計あってのものという側面もあり、パキスタン製など他国製のコピーは必ずしも高性能な銃とはなっていない。
上記のような欠点もあってか、H&K社の最近の製品でもローラーロッキングの採用例が途絶えている。スイスのシグ社も、過去にSG510で同様のローラー・ディレードブローバックを採用して一定の評価を得ていたが、ガスオペレーションにローラーロックを併用したSG530で失敗して以降は採用していない。
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