防弾ガラス / Bulletproof glass

 防弾を目的としたガラス状製品の総称。より厳密に抗弾(Bullet-resistant)ガラスとも呼ばれる。
 一般的に「ガラス」と呼ばれるが、現代では大半は透明度の高い樹脂などと組み合わされた合板状の製品である。
 またボディアーマーなどと異なり技術的には一般的な高耐久性ガラス製品の延長にあるものであるため、
 防弾レベルの性能ではないが、防犯ガラスなど同様の技術で製造されている一般のガラス製品も多い。
 
 銃撃を防止し得る強度の窓の需要は防弾ガラスの発明以前から非常に高かったが、技術的な問題で長らく通常のガラスを厚くする以外の手法がなく、
 禁酒法時代に荒稼ぎし高価なトンプソン短機関銃を大量購入したアル・カポネなども
 1928年に製造した自家用の「防弾キャデラック」には1インチ(2.54cm)の窓ガラスをはめ込んだのみであった。

 初期の「防弾ガラス」は初期の積層ガラスそのものであり、フランスの科学者エドゥアール・ベネディクトゥスが1903年偶然発見*1し1909年に特許が取得された。
 1936年にアメリカのピッツバーグ板ガラス社(現PPGインダストリーズ)で量産が開始されると即座に警察車両へと導入され、以後銀行などの重要施設やVIP用車両、軍用の用途でも普及していった。

 種類としてはラミネートガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、それらの複合系であるLP(ラミネーテッドポリカーボネート)やGCP(グラスクラッド・ポリカーボネート)などがあり、特性やコストなどによって使い分けられる。
 各社独自の積層構造によって高視認性・耐弾性・軽量化などを様々なコストで実現する製品が存在しており、
 銃火器関連の分野では比較的「定番」が存在しないタイプの製品であるといえる。

 防弾ガラス規格に関してもアメリカのUL 752*2やHPホワイトTP 0500*3、ASTM-F 1233*4、ヨーロッパ/イギリスのEN/BS EN 1063*5など多様な規格が存在する。
 多くの規格は防弾ベスト向けのNIJなどと異なり、変形に弱いガラスに対する規格のため、大規模な変形を瞬時に生じさせ得る大質量スラッグ弾を発射可能な散弾銃に対して特別枠が存在する点が特徴である。

 下記に防弾ガラス規格の一例を示す*6
 なおいずれの規格のレベルにおいても射撃後如何なる剥離も生じないという状態でのみ認定されるものとなっているため、単純な防弾機能の限界はそれ以上となる。

UL752(アメリカ)
いずれも試験材料は12x12インチ(30.5x30.5cm)。
なお弾種表現は下記の通り。
・LC…レッドコア
・JL…ジャケテッドレッド
・SP…ソフトポイント
・SWD…セミワッドカッター
・GS…ガスチェック*7
レベル対象弾種弾頭重量最大初速射撃数発射距離試験詳細
19mm FMJ LC8g394m/s34.6m・4インチ三角形内に3発
・1.75インチ以内で2発
・枠なしで端に1発
2.357マグナム JL SP10g419m/s
3.44Magnum SWD GS15.6g452m/s
4.30-06 LC SP11.7g851m/s1・中央に1発
・枠なしで端に一発
57.62mmx51LC FMJ9.7g922m/s
69mm FMJ LC8g469m/s5・4.5インチ四方内に5発
75.56x45mm FMJ LC3.5g1031m/s
87.62mm FMJ LC9.7g925m/s
9.30-06 M2 AP10.8g910m/s1・中央に1発
・枠なしで端に一発
10.50BMG M2 FMJ LC45.9g942m/s・中央に1発
Shotgun12ゲージ ライフルド・レッドスラッグ28.3g531m/s3・4インチ三角形内に3発
Shotgun12ゲージ 00バックショット42g(総重量)402m/s

EN/BS EN 1063
いずれも試験材料は50x50cm。
なお弾種表現は下記の通り。
・RNL…ラウンドノーズ・レッド、球形弾頭
・FSJ…フルシンセティックジャケット、樹脂被覆弾頭
・FCJ…フルコッパージャケット、銅被覆弾頭
・RNSC…ラウンドノーズ・ソフトコア、球形弾頭
・CNSC…コニカルノーズ・ソフトコア、尖頭形弾頭
・FNSC…フラットノーズ・ソフトコア、平坦弾頭(アメリカ規格のセミワッドカッターに相当)
・SHC…スチールハードコア
レベル対象弾種弾頭重量最大初速射撃数発射距離試験詳細
BR1.22LR RNL2.6g370m/s35m・120mm±10mm三角形内に3発
BR29 mm Luger FSJ-RNSC8g410m/s
BR3.357 Magnum FSJ-CNSC10.2g440m/s
BR4.44 Magnum FCJ-FNSC15.6g450m/s
BR55.56x45mm NATO SS1094.0g960m/s10m
BR67.62x51mm NATO M80 FSJ9.5g840m/s
BR77.62x51mm NATO AP SHC9.8g830m/s
SG112ゲージ
ブレネケ型レッドスラッグ
30.1g440m/s1・中央に1発
SG23・120mm±10mm三角形内に3発

 

 戦闘車両の視察孔に用いられる防弾ガラスは車内から交換できるようになっているものもある。

 なお、弾を受け止めた際に出来るひび割れについては現代の技術においても完全には防ぐことは出来ない*8。これについては理解されていないことがあり、弾を受け止めてヒビだらけになったのを見て「防弾ガラスなのに割れた」と勘違いされたり、メディア作品でも撃たれたにも関わらず傷一つ無かったりすることがある。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • フリーページから独立させましたが、何分資料が非常に少ないので詳しい方が加筆修正や情報提供などをして貰えると非常にありがたいです。 -- 2019-06-16 (日) 17:14:17
  • 10年くらい前に放送されてたトリビアの泉では防弾ガラスをRPG7の弾頭が貫通したケースと貫通できなかったケースがありました。それはRPG7の弾頭の直撃に耐える防弾ガラスがあるということだと思いますが貫通したケースは弾頭の威力が高かったのか、それとも防弾ガラスの性能が足りなかったのか、どちらだと考えられますか? -- 2019-06-16 (日) 21:05:42
  • トリビアの泉のやつだけど、2枚(発)目は弾頭の不備説がある。 -- 2019-06-16 (日) 21:18:03
  • とりあえず一旦概要を更新。詳細はまた近日中に追記いたします。 -- 2019-11-21 (木) 23:31:35
  • テスラの防弾ガラスの件で思ったんだが、普通は撃たれた周辺にヒビが入るけど、撃たれてもヒビが入らない防弾ガラスってあるんだろうか。映画とかの防弾ガラスも撃たれても傷一つないみたいなケースが多いし。 -- 2020-01-08 (水) 11:35:57
  • 現在では技術的に無理ですね。結局どの素材を使うにしろいずれか単体の素材が表層に使われますので、一番硬いガラスか一番柔らかいポリカーボネートでも亀裂を出さないことはほぼ不可能ですのでまだ難しいでしょうね。後々追記しようと思っていますがポリカーボネートは柔らかいので比較的亀裂のサイズ自体は下がるため、撃たれた後も移動の必要がある車両用防弾ガラスでは表層に使用されます(ただしポリーカーボネート自体は摩耗に弱く視認性が低いため交換の頻度が高い欠点があります)。 -- 2020-01-08 (水) 11:51:12
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*1 樹脂膜が張ったガラスフラスコを誤って落としたところ、それが粉々に割れなかった所から発見された
*2 Underwriters Laboratories
*3 Test Procedure
*4 American Society for Testing and Materials、米国試験材料協会
*5 なおこの規格を使用する場合はほぼ窓枠の防弾規格EN/BS EN1522,1523も併用される。レベル設定自体は同じである
*6 世界各国の主要な防弾規格はこちらのページ等を参照。
*7 ソフトポイント弾において、弾丸の膨張によるバレル内での抵抗を減らすために刻まれる横方向の溝。
*8 作り方次第ではひび割れを小さくすることは可能だが、基本的に着弾を跳ね返すのではなく受け止めて防ぐので無傷というのは不可能

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Last-modified: 2023-07-08 (土) 03:59:30 (515d)