散弾銃の弾薬 / Shotgun shell

 散弾銃弾薬は散弾を扱う特性から拳銃弾や小銃弾とはかなり異なったものとなっており、英語ではShot Shell(ショットシェル)と呼ばれる*1。また散弾銃にはライフリングがない、口径が大きいなどの理由から、様々な弾頭を用いることが出来るため、一つの銃でも弾を変える事で用途を使い分ける事が出来る。
 特に狩猟や特殊事件においては、様々な獲物や状況にも対応するため、複数の種類の弾薬を携行することが慣習となっている。
 シェルの長さで最も主流なのは70mm(2-3/4インチ)だが、これも用途や製造メーカーによって65mm(2-1/2インチ)〜89mm(3-1/2インチ)と様々なものがある。
 3インチ以上の薬莢は、より多くの散弾や火薬が装填でき、マグナムシェル(Magnum shell)とも呼ばれる。

 なお散弾銃の口径についてはゲージの項参照。

ショットシェル独自の構造

  • シェルとロンデル
     現代の一般的なショットシェルではシェル部分の大半がプラスチックで構成されている。これは通常の弾薬と比較して発砲時に発生する圧力が小さいためである。
     プライマーのある底部はショットシェルでも高い圧力を受け、またエキストラクターと嚙み合わせる部分のため、変形を避ける為に強度を求めて真鍮や鉄などの金属が用いられる。この底部の金属部はロンデルと呼ばれる。
     プラスチック材料が普及するまでのシェルには厚紙が用いられていたが、湿気による悪影響を受けやすいため軍など一部ではシェルからロンデルまでをワンピースとして全て真鍮で作られたショットシェルが用いられていた。
     現代でも愛好家向けに紙製シェルのショットシェルや、シェルからロンデルまで全て真鍮で作られたショットシェルが製造販売されている他、中国の軍や武装警察が運用しているQBS-09には全てアルミ合金で作られたショットシェルの弾薬が供給されている。
  • ワッズ(ワッド)
     弾丸と発射薬の間に挟まり、弾丸を押し出すもの。
     散弾を用いる都合上、弾丸だけでは燃焼ガスを封じ込めることができない。このため燃焼ガスを逃がさないようガスシールとなるワッズが必要となる。
     初期のワッズはフェルトなどを単純に詰めただけであったが、現代のワッズはプラスチック製かつ弾丸を包み込む椀状になっており、ワッズカップと呼ばれる。   
     カップ状になっているのは鉛の弾丸の接触による銃身の汚損を防ぐためである。カップ部分には切れ込みがあり、銃身から射出された後は空気抵抗により切り込みからカップが広がり、弾の散らばりに影響が出ないようになっている。
     またワッズカップには伸び縮みする「脚」の部分があり、火薬の燃焼圧力のショック・熱を緩和する目的と、粒数・粒径が異なる弾丸を一定サイズのシェルに隙間なく収める目的がある。急激に圧力や熱が加わると弾丸同士がぶつかり合い変形したり固着したりして弾道やパターン(散布界)に影響が出るためである。
  • クリンプ
     ショットシェル先端の封印。
     弾頭がケースの蓋代わりになる通常の弾薬と異なり、バラバラの散弾がこぼれないようショットシェルでは先端を閉じる必要がある。
     「スタークリンプ」と呼ばれるシェルを機械で折りたたんで蓋をする方式が一般的。なお、スタークリンプでは蓋をしたとき口がカットしたピザのような星型に見える。
     「ロールクリンプ」はシェル口に沿ってシェルを内側に折り返す(ロールする)方法である。先端が開いていても良いスラグ弾(一粒弾)で使用される他、シェルとは別体の蓋を用いて散弾でも使用される場合がある。

一般的な実包

 狩猟などで一般的に使用される実包。

銃弾名説明
バードショット(Birdshot)鳥狩りに使われる小ペレット(pellet)弾。
日本の散弾規格で言うと12〜2,BBのサイズ。装弾量数十〜数百。弾の密度が高いため敏捷な獲物に向く。
バックショット(Buckshot)鹿狩り・対人用に使われる大ペレット弾。
日本の散弾規格で言うと4〜0,00,000のサイズ。装弾量十数粒〜数粒。
スラッグ(スラグ)弾(Slugshot)熊撃ち用や散弾銃での遠距離射撃に使われる単弾(一粒弾)。
ライフルのように弾道を安定させるために、回転する鞘(サボット)の中にスラッグ弾を収めたもの(サボテッドスラッグ)が主流。
 

特殊な実包

 法執行機関などで使用される特殊用途の実包。

銃弾名説明
フレシェット(Flechette)ペレットの代わりにフレシェット(小型のダーツ状の弾)を打ち出す弾。
貫通力・初速共に高いが、サボテッドスラッグに比すると、弾道の安定性には欠ける。スラッグのような一本だけのタイプ、対防弾チョッキ用の複数の小型フレシェットを装填したものなどが存在する。
ガス弾(Gas)暴動鎮圧部隊によって使用される殺傷能力の低い弾
ペッパーガスや催涙ガスが多い。
ビーンバッグ弾(Bean bag round)ゴムや鉛のペレットなど小さな玉で満たされたナイロンバッグを打ち出す。
殺傷能力が低いので、野生生物保護団体や暴徒鎮圧で使用する。
染色弾(Paint round)暴徒鎮圧などで用いられる、染色剤を撃ち出す弾。
簡単には洗い落とせない染料が使用されており、暴動に参加していた人物がその場から逃走したとしても特定しやすくなっている。
岩塩弾(Rock salt shell)暴徒鎮圧などで用いられる、岩塩粒の詰まった弾。
貫通力がきわめて低く環境にも優しい。鳥や小型獣であれば衝撃で殺傷・撃退可能なので農園の害獣駆除にも用いられる
水包弾(Water filled shell)水を充填した弾。
爆発物除去の現場において、爆発物周辺の障害物・もしくは爆発物そのものを、遠隔から移動・除去する際に、不要な事態を招かないよう用いられる。
ブリーチング弾(Breaching round)ドアなどの障害物破砕用としてSWAT等によって使われるスラグ弾の一種。
金属を粉末化して固めたもので、初回の衝突衝撃で弾体が粉末状に砕け散ることから安全に錠だけを破壊し、内部の人質に二次被害をもたらさずに済む*2
フレア(Flare)安全や救助目的に使われる信号弾
バードボム(Bird bombs)鳥を追い払うために空港などで使われる爆竹弾。
フラッシュバン(Flash Bang)暴徒鎮圧やホームディフェンスを目的として銃口から閃光と大音響を発生させる弾
テイザーXREP(Taser XREP)電源内蔵・投射式のスタンガン
フラグ12(Frag12)AA12用に開発された小型成形炸薬弾。
ロケット弾のように発射後展開する尾翼によって安定した軌道を確保する。通常のショットガンでも使用可能だが、サイズの関係で威力が限定されるため、大量に連射可能なAA12以外では実用性は低い。
 

その他のマイナーな実包

 主に娯楽用途で販売されている変わった設計の実包。

銃弾名説明
ボーロー弾(Bolo shell)2・3個のスラッグ弾をワイヤーで繋いだ実包。
ほとんど趣味の域を出ない実験的な製品であるが、商品によるが次のような効果があるとされる。
・ワイヤーによりスラッグ弾が大きく拡散しないため、高い集弾性と適度な拡散性を実現
・スラッグ間に張られたワイヤーが大きな損傷面を作り大きなダメージを与える

しかし散弾実包は強力なためワイヤー自体が切れてしまう事も多く、有効ではない。
ゾンビ映画などではスラッグ間に張られた長大なワイヤーが人体を両断するといった誇張されたギミックに使用されることがある。
火炎放射(flamethrower)アルミやジルコニウムなどの発火性粉末を着火して発砲する娯楽用の実包。
成分的には花火などに近いもので、危険な爆発物であるため規制対象となっている地域が多い。
マグネシウムのペレットを使用するドラゴンブレス(Dragon's breath)と呼ばれる12ゲージ散弾の場合、燃焼に酸素を必要としないため、水中や土中に放り込んでも燃え続けることから、
一般的な酸素供給を断つ類の消火手段では鎮火できず、燃え尽きるのを待つしかない。
ミニシェル(Mini shell)アメリカのアギーラ(Aguila)社から供給されている小型実包。
一般的な2 3/4インチ長に対して1 3/4インチとほぼ半分の長さのため、チューブラーマガジンに倍の量を装填できるという特徴がある。
エネルギーや散弾量も約半分になるが、一つのショットガンで低威力の弾が扱えるという利点もあり汎用性が高い。
しかし、銃の種類によっては給弾信頼性は低い。
また、その寸法上ボックスマガジンを使用する散弾銃では使用不可能である。

日本の散弾規格

号数直径(mm)一粒の重さ(g)対象
X8.753.750シカ、イノシシ
SSSG7.752.600
SSG7.001.960
SG6.501.490
AAA6.001.280キツネ、タヌキ、ガンの遠射
AA5.500.950
A5.000.750
BBB4.750.590
BB4.500.520キツネ、タヌキ、ガン
B4.250.460
14.000.370ガン、カモの遠射
23.750.320
33.500.250カモ、ノウサギ、キジ、ヤマドリの遠射
43.250.200
53.000.150カラス、キジ、ノウサギ
62.750.110
72.500.090ノウサギの近射
82.250.070
92.000.050タシギ、ウズラ、リス
101.750.030
111.500.021ムクドリ、ヒヨドリ、スズメ
121.250.013

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • KSGの弾倉片側に11発装填可能でしたので、全体では22発装填可能という事になるのですが……実際のところ銃口初速や平均的な有効射程はどの程度のものなのでしょうか? -- 2015-03-16 (月) 16:02:03
  • 映画版「ジャッカス」にて『12ゲージのゴム弾を食らってみる』なる挑戦あり。当初は胸に食らう予定が「防弾チョッキ着てても死ぬ」可能性があるので腹に変更したとのこと。一発でうずくまっていた上、数日は激痛と内出血が止まらなかったとのこと。 -- 2015-03-20 (金) 23:57:20
  • ドラゴンブレスの実用性はあるの? -- 2015-03-24 (火) 03:42:37
  • 陽動には使えそう。少なくとも撃ち合うものではないと思う。 -- 2015-03-24 (火) 07:05:25
  • OOバックはよく9mmパラベラム弾とほぼ同じ威力とは耳にしますが、貫通能力的には、剥き出しの丸い鉛である以上、かなり低いんですかね? -- 2015-03-24 (火) 08:23:13
  • ↑ジャイロ回転をしていない。球形。なので通常の弾頭よりも貫通力はないそうです。 -- 2015-12-11 (金) 14:54:23
  • テイザーXREP(Taser XREP)弾の有効射程を知りたいです スタンガンの機構が入っている分だけ発射薬が少なそうですが何メートルくらい飛ぶんでしょう? -- 2019-05-19 (日) 19:54:35
  • 公称の有効射程が100フィートなので約30mですね。ただまぁよく言われる話ですが有効射程はメーカにもよりますが大体50%以上の命中率が見込める距離ですので、飛翔距離自体はもっとある筈です。 -- 2019-05-19 (日) 20:57:03
  • 散弾銃の弾に照明弾や信号弾があると聞いたことがるのですが、それは実用的なものなのでしょうか? それと民間か公的機関か、どちらが主に使用されているのでしょうか? -- 2022-11-22 (火) 12:57:27
  • アメリカで発炎筒などを製造しているORION社が海難事故用に12ゲージ散弾銃で撃てる信号弾を製造販売していますね。これは個人でも購入可能なようです。ttps://www.orionsignals.com/marine-products/ -- 2022-11-22 (火) 13:33:20
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*1 拳銃弾や小銃弾はCase(ケース)
*2 二次被害を避ける目的という点では、『フランジブル弾』と呼ばれているものとほぼ同等。

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Last-modified: 2023-07-21 (金) 15:50:02 (280d)