博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb †
1963年、アメリカ映画
監督:スタンリー・キューブリック
主演:ピーター・セラーズ
・ストーリー
アメリカ戦略空軍基地の司令官ジャック・リッパー将軍は精神に異常をきたし、指揮下のB-52爆撃機の34機にソ連への核攻撃(R作戦)を命令したまま基地に立て篭もった。巻き込まれた英国空軍のマンドレイク大佐は将軍の閉じこもる執務室から出られなくなる。
アメリカ政府首脳部(大統領、軍高官、異常な性格の科学者など)は、会議室にソ連大使を呼んで対策を協議する。ソ連首脳とのホットラインで、ソ連は攻撃を受けた場合、報復として地球上の全生物を放射性降下物で絶滅させる爆弾を自動的に使用することが判明する(この爆弾はドゥームズデイ・デバイス、「皆殺し」装置と呼ばれている)。密かにこのようなものを配備したことを非難するアメリカ側に、ソ連側は「近日公表する予定だった」と悪びれない。
この不毛な協議が続いている間にも爆撃機は進撃を続け、やがて事態は破滅的な結末へと突き進んでいく――。
・解説
1962年の「キューバ危機」など、深刻な東西冷戦、米ソ対立を背景に、「偶発核戦争」の恐怖を描いた、S・キューブリック監督の代表作。同時期に同テーマを描いた作品としては、他に『未知への飛行/フェイル・セイフ(原題;FAIL-SAFE)』などがあるが、緊張感に満ちた展開の『未知への――』とは裏腹に、こちらはとことんブラック・コメディ調。深刻な事態に右往左往するだけの無能な政権中枢、旧ナチスドイツ生き残りのマッド・サイエンティスト、Dr.ストレンジラヴ*1の珍妙な風体・言動、クライマックスシーンの「水爆ロデオ」、エンディング・テーマ『また会いましょう』の場違いな脳天気な歌詞など、全編が黒い笑いに満ちている。
(冒頭にとってつけたように挿入された、アメリカ空軍による「映画はフィクションであり、現実には起こりえない」との断り書きすら、ある意味失笑を買う)
その一方で、真に迫った(シャレにならない)描写も少なくない。本作の制作当時には未開発だったが、後に旧ソ連で作中の「皆殺し装置」を連想させる自動報復システム「Dead Hand(死者の手)」が、1984年から稼働していると確認されている。
また核攻撃仕様のB-52内部構造はアメリカ空軍の機密で、全く協力が得られなかったため、美術監督ピーター・マートンが創作したものである。マートンは、ル・ハンター著『Strategic Air Command』を底本にしながら、合法範囲で可能な限りB-52のインテリアを調べ上げ、細部まで造り込みを行った。苦心の創作・再現が甲斐あってリアルな演出を実現できた一方、実機とあまりにも一致していたために美術チームがFBIの捜査対象とされる程であった。
なお当サイトではタイトルが長すぎるためしばしば「博士の異常な愛情」の省略形で表記する。