ノースハリウッド銀行強盗事件 / North Hollywood shootout

 1997年、アメリカ・ロサンゼルス、ノースハリウッドにて発生した銀行強盗事件。
 犯人のラリー・ユージーン・フィリップス Jr.とエミール・デクバル・マタサレヌは1990年頭から幾度も銃器を用いての銀行強盗、現金輸送車の襲撃を行っており、最終的に強奪した現金の総額は約1600万ドルにも及んでいた。
 1997年2月28日朝、開店直後のバンク・オブ・アメリカ、ノースハリウッド支店に入り口から押し入った二人は、天井などに銃を乱射したのち、行員に銃を突きつけ現金を要求した。
 彼らが所持していた銃は、両方とも違法にフルオート改造が施された中国製56-S式自動歩槍で、ルーマニア製AIMSのボタン式ワイヤーストックを換装し、これも中国製の装弾数75発及び100発のドラムマガジンが装着されていた。そのうち1丁は、ロアハンドガードが初期型AIMSの物に似た後方に伸びる形のフォアグリップ(米国では通称「リバースドン」と呼ばれる)が付いた物に交換されており、操作性の向上が図られていた。このハンドガードはルーマニア製AIMSの物とよくいわれるが、フォアグリップにAIMSには見ることのできないフィンガーグルーブが確認できるのと、木目調からして、米国のフェデラル・ファイアーアームズ社製のカスタムパーツと思われる。もう1丁の56-S式自動歩槍も、ロシアや東欧製AKMの物のように、合板で膨らみのあるロアハンドガードが換装されていた。

 二人はバッグに金庫の紙幣をあるだけ詰めさせるが、この間に付近を通行していた住民が強盗に気づき通報。50名以上の警官が現場に到着し銀行を包囲する。
 しかし、犯人の二人は現金の詰まったバッグを持って堂々と入り口から現れ、包囲する警官隊に向けて銃撃を開始。銀行の駐車場にて警官隊との激しい銃撃戦が展開された。
 フィリップスはクラス3Aのケブラー製防弾着を胴体だけでなく腕や脚に着用。マタサレヌも胴体を防弾着で覆っており、警官隊の持つベレッタ92F/92FS自動拳銃.38口径リボルバーイサカレミントン散弾銃での銃撃を受けても銃撃を続けた。反対に犯人の二人の銃器に装てんされた弾丸はすべて被覆鋼弾であり、パトカーのボディを易々と貫通した。この犯人の銃撃で警官隊や野次馬の一般人が一方的に次々と負傷した。

銀行前での犯人

 この銃撃戦の途中、奪った札束の中に強盗対策の染料発射機が仕込まれていたために二人はそれを放棄。フィリップスは、自分たちの乗ってきた車に積んでいたHK91自動小銃に持ち替え、TV局のヘリにも銃撃を加えた。
 マタサレヌは自分たちの乗ってきた自動車に乗り込むと車内から発砲しながら駐車場からゆっくりと移動を開始。フィリップスは銃を再び56-S式自動歩槍に持ち替え、マタサレヌが運転する自動車を楯についてくる警官隊に向け発砲しながら徒歩で住宅街へ逃走を図った。
 警官隊は負傷者を増やしながらも包囲しながら追跡を続けたが、フィリップスが自動車から離れ、ライフルに故障が発生して孤立したのを機に二人を分断した。
 孤立したフィリップスは予備として持っていたベレッタ 92FSに持ち替えて警官への発砲を続けたが、警官側の銃撃が防弾着のない手や脚の隙間に命中し負傷。直後にフィリップスはベレッタを自分の顎に押し当てて発砲、自殺した。

住宅街での犯人

 一方のマタサレヌは自前の自動車を放棄し、他の自動車を強奪しようとしたが、奪ったトラックのキルスイッチ*1を逃げた運転手が咄嗟に起動させていたために立ち往生。
 その隙にMP5短機関銃AR15自動小銃で武装して駆けつけたSWAT隊員三人がパトカーで急襲。マタサレヌはCマグ装着のブッシュマスターXM15・ディシペイターカービン*2で応戦し、自動車越しに激しい銃撃戦を繰り広げた。
 SWAT隊員は自動車の下の隙間から狙撃を敢行、結果マタサレヌは脚部を撃ち抜かれ、さらに弾切れとなったために降伏。救急車の到着前に脚部からの出血多量で死亡した。

 約45分に渡って繰り広げられた銃撃戦で犯人側は1000発以上も発砲し、12人の警察官と8人の民間人が負傷するも、奇跡的に犯人以外の死者はなかった(銀行内の人質は金庫に入れられたが、犯人の隙を見て扉を閉め、難を逃れた)。
 この事件で警察にも貫通力の高い火器が必要だと痛感したロサンゼルス警察は、火力の強化としてAR15クラスのライフル/カービンの装備をおし進めることとなった。ちなみに事件の最中、現場指揮官は部下に付近のガンショップから自動小銃を調達するように命令していた(運搬中に犯人が制圧され、結局間に合わなかった)。
 
 この事件はTV局の空撮によって、犯人が駐車場に現れてから死亡するまでが全米で放映された。
 度々日本の民放の特番にてこの映像が決定的瞬間、衝撃映像として取り上げられることもある。

 後に、空撮報道を元にしたTV映画が『44MINUTES:THE NORTH HOLLYWOOD SHOOT-OUT(邦題:44ミニッツ)』としてアメリカで放映された。
 2003年に公開されたアクション映画『S.W.A.T.』冒頭の銀行強盗事件は、この事件に基づいて作られたシーンである。


このページの画像はYouTubeから転載しています。
転載に関しては、転載元の転載規約に従って行ってください。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 映画のSWATの冒頭のシーンに似てるなぁって思ってたが、この事件が元ネタだったのか。初めて知ったわ。 -- 2015-05-25 (月) 21:38:53
  • やる夫で纏められててワロタ 手軽に詳しく知りたい奴はttp://matariyaruo.doorblog.jp/archives/28891699.htmlde -- 2015-05-26 (火) 07:02:18
  • これ今年の5月18日に丸見えで放送されてた -- 鈴木侑生? 2015-12-31 (木) 12:17:17
  • 有名な事件ですからね、アンビリでもやってました -- 2015-12-31 (木) 12:31:49
  • LAPDの一般警官のAR-15は警官の自費購入では? -- 2016-01-02 (土) 22:49:40
  • 犯人の名前が面白い。マタサレヌ(待たされヌ) -- 2017-05-22 (月) 20:26:05
  • もし仮にこの強盗と同じような装備を持って同じような状況の強盗が現在(2017年)起きたら、即座に鎮圧されてしまうんですかねやっぱり? -- 2017-07-13 (木) 21:20:34
  • 大体警察の装備以前に警備システムが相当進化してますからねえ。まぁ撃ち合いとなれば即座に、とはいかないでしょうが強盗側の一方的な攻勢にはなり得ないのは確かです。 -- 2017-07-13 (木) 22:02:59
  • ロサンゼルス市警察博物館の収蔵品の解説文でドラムマガジンの装弾数が99発(たぶんロス市警の数え間違い)となっている事と、実際に75発と100発の両方が展示されてるのが確認できたので、本文を少し修正。 -- 2022-05-06 (金) 19:02:47
  • 昔のアームズマガジンの巻末でこの事件で犯人の遺族に訴えられたのが市警でも犯人を撃った警官でもなく、救急車にまだ息のあった犯人よりも頭を撃たれて重症の一般人を先に乗せるよう指示した警官だったとかの胸糞記事載ってたのを思い出した……… -- 2023-03-29 (水) 10:33:22
お名前:


*1 エンジンや電力系統を手動で緊急遮断する装置。事故時に用いるものだがこのように防犯用途でも用いられる。
*2 カービン長のバレルにフルレングスのハンドガードとアイアンサイトを備えるモデル。アイアンサイト間の距離が長くなることでカービンサイズながら精度の高い照準が可能。

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2022-05-06 (金) 18:59:02 (714d)