1980年代から1995年に掛けて中国で開発され、1995年に完成し、1996年に制式採用と部隊配備が始まった35mm口径の携行自動擲弾発射器。
発射器の製造は国営9656廠(湖南資江機器廠)、光学照準器の製造は国内向けを国営5618廠(湖南華南光学儀器廠)、輸出向けを国営559廠(無錫湖光儀器廠*2)が担当した。
後述の経緯から、世界で唯一、制式化され量産された個人で携行するフルオートマチック擲弾発射器である*3。発射モードはセレクターによりセミオート・フルオートを切り替え可能。
1980年代の中国軍は、ベトナム戦争や中越戦争でアメリカ軍やベトナム軍が運用し中国軍に多大な被害を齎したMk19、あるいはソ連のAGS-17を参考にした自動擲弾発射器を要求すると共に、三脚で陣地設置するそれを歩兵1人で携行可能となる事を求めた。これは当時の中国軍における自動車化が途上であった事や、仮想敵であるソ連やインド、ベトナムとの国境が河川や山岳、森林の多い地域で車両の通行が困難である為に、重装備の輸送に車両を頼り切れないという事情があった。
この要求に応じて華東工業院(現、南京理工大学)の陆家鹏教授が発射器の、在骐教授が弾薬のチームを率い、国営5316廠(浙江先鋒機械廠)、国営9449廠(江蘇工模具廠)、国営925廠(江蘇永豊機械廠)、国営996廠(浙江紅星機械廠)と共に開発を始めたのだが、当時の華東工業院は文化大革命の影響から抜け出し切れておらず、開発の成果を中々出せないまま年数ばかりが過ぎていった。
この状況に対し国家軽武器論証研究所は全国の工廠に対し自動擲弾発射器の開発の入札を募る事となり、国営9656廠が湖南省軽武器研究所と共に、国営948廠(湖南華達機械廠)、国営343廠(湖南洪源機械廠)、国営9624廠(湖南省建華機械廠)、国営5618廠(湖南華南光学儀器廠)を率いて入札に参加。国営9656廠が過去に設計した77式高射機槍や85式高射機槍の知見を活かした設計開発計画で入札し、これが華東工業院の入札金額よりも3割近く安かった為に国営9656廠が受注に成功した。
こうして開発が国営9656廠に移った後は、77式高射機槍や85式高射機槍で採用していたガス直噴方式とフラップ閉鎖方式、さらに当時配備が始まっていた81式班用機槍のドラムマガジンの設計を取り入れて開発された。
弾薬はAGS-17の模倣らしく、ハイ・ロー・プレッシャー薬莢を採用していない*4。その弾速はNATO標準40mm榴弾の歩兵用(46mm,約80m/s)の倍以上、固定機銃用(53mm、約240m/s)に近い190m/sを実現しており、有効射程は車両などの点目標へは600m、歩兵部隊などの面目標へは1200m、最大射程はストックを兼ねたバッファーチューブの上面に刻印された射表によれば1782mとなっている*5。
また口径が35mmとなった由来の1つとして、設計を主導した湖南省軽武器研究所の朱徳林によれば、ソ連のAGS-17に由来する30mm、あるいは西側の40mmのどちらかを選んでしまえば、実際には弾薬互換性が無かったとしても、他国からは中国が東西のどちらかの陣営に偏っているという偏見をもって見られてしまうため、どっちつかずである35mmが選択されたとしている。
上掲画像ではグリップが見当たらないが、これは機関部直下にドラムマガジンと三脚架取付基部を配し、これらからオフセットするようにグリップを機関部の右側面から斜め下向きに取り付ているためである。また発射器上面のキャリングハンドルは、コッキングハンドルとガスシリンダーを兼ねており、発砲時にはハンドルごと前後する。
ちなみにドラムマガジン本体にはゼンマイを巻き上げるためのハンドルやレバーが付属していない。発射器本体から外したグリップをドラムマガジンに宛がって巻き上げハンドルにする仕組みである。このためグリップ底部にはドラムマガジン正面の六角軸に差し込むソケットを有する*6。
こうして完成したQLZ-87は中国軍に採用され、火力分隊では携行擲弾発射器としてバイポッドを使用しての伏射のみならず立射でも射撃可能な擲弾発射器として、中隊や大隊では三脚架や車両の銃架に据えて自動擲弾発射器として、幅広く運用される事となった。
しかし、歩兵1人でも携行可能な重量に抑えるべく、反動を抑える為に威力と射程が犠牲となっている事は中国軍としても評価が分かれる所であった他、発射器右側面から斜め下向きに伸びたグリップが伏射では身長175cm以上でないと構え辛い、装填状態の15発ドラムマガジンが余りにも重すぎて脱落しやすい、携行擲弾発射器としてなら装弾数は6発でも十二分に足りる、逆に自動擲弾発射器としては装弾数は15発だと不足気味、光学照準器の脱着に工具と時間を要する為に即応性に欠けるといった欠点があった。
とはいえ、動作信頼性に関しては6発ドラムマガジンで運用する限りは特に問題無く、重すぎる15発ドラムマガジンについても火力分隊の装填手が下から支える事で脱落への対策が可能となり、85式高射機槍に由来した簡素な構造による良好な整備性、破甲弾(HEAT弾)を用いれば最大80mm厚の装甲を貫通可能などと使い勝手は悪くないようだ。
このため、自動擲弾発射器としての後継には給弾方式に30発ベルトリンク給弾を採用したQLZ-04自動擲弾発射器が、携行半自動擲弾発射器としての後継には新たにより軽量な装弾数3発のドラムマガジンと共にQLB-06半自動擲弾発射器とQLU-131狙撃擲弾発射器が採用された現代においても、枝分かれした後継のどちらの役割も1つでそれなりにこなせる、文字通り"良く言えば多才、悪く言えば器用貧乏"な擲弾発射器として現役であり、この特性は携行出来る装備に制約の強い海軍陸戦隊では得難いようで運用例がしばしば見られる。
一方、陸軍の一般部隊での配備もまだまだ確認されている他、中国軍で広く運用されている4輪駆動軽装甲車"猛士"の最新型である第三世代型では、RWSの搭載火器としてQJZ89重機関銃や95式自動歩槍など各種携行火器を搭載できるようになっており、その選択肢の一つとしてQLZ-87を搭載している運用が南部戦区第75集団軍や西藏*7軍区山南軍分区などで確認されている。こういったように、開発当初には想定されていなかった運用方法もされながら、しばらく現役であり続けるようだ。
また海外に目を向けるとソマリアやイランなど中東やアフリカの各国へ輸出されている他、スーダンではライセンス生産も行われており、こちらでも携行擲弾発射器から車載擲弾発射器まで幅広い運用を見せている。
なおかつて一時期、製造元である湖南資江機器有限責任公司の親会社である湖南省兵器工業集団有限責任公司は公式サイトにおいてQLZ-87を警察用装備として紹介しており、実際に新疆ウイグル自治区ウルムチ市の武警で配備されているのが確認されている。
登場作品 | ジャンル | 使用者 | 備考 |
ウルフ・オブ・ウォー | − | − | 項目参照 |
バトルフィールド 3 | − | − | 項目参照 |
バトルフィールド バッドカンパニー | − | − | 項目参照 |
ファークライ4 | ゲーム | − | GL-A87 装弾数8発 |
最新の10件を表示しています。 コメントページを参照