プッシュ・ロッディング
1911系やFN ハイパワー、CZ75など一部の自動拳銃で可能な、片手での緊急装填術。
これらの拳銃では、スライド内、バレルの直下にリコイルユニットが収められており、銃口直下に、ちょうど指がかけられるくらいの面が存在している(1911系であればリコイルプラグ)。ここを何か硬いもの(机の角、石ころなど何でもよい)に当てて強く押し込むことで、添え手で引くことなくスライドを後退させて装填することができる。
一例として、スティーブン・セガール主演の映画で、セガールが銃口下部に指を押し当てて、スライドを後退させるシーンがある。これは薬室(チャンバー)内に弾丸が装填されているか確認しているだけだが、これをスライドが後退しきるまでいっぱいに押し込めばプッシュ・ロッディングとなる(ただし、1911系のリコイルスプリングはかなり強力なので、指で押し込む程度で完全に後退するかは疑問)。
小説では、大藪春彦の『傭兵たちの挽歌』の後半、危機的な状況に追い詰められた主人公・片山が用いるシーンが印象的。作中で片山がコルトを収めた革細工メーカー・ローレンス製の特製ホルスターの前側には鉄板が内蔵され、とっさにプッシュ・ロッディングができるように工夫されていた。
米軍在籍時代からコルトガバメントに親しみ、その性能を知り尽くした片山だからこそとっさになしえた技であり、また作者・大藪の銃器に対する造詣の深さも窺える演出である。
なお、当然のことながらこのテクニックを用いるには、フレームからスライドが大きく突出し、かつリコイルスプリングのガイドロッドが、プッシュ・ロッディング前提に設計された、バレル長より短いものである必要がある。フレームのダストカバーがスライドの全長をカバーしているIMI ジェリコや、バレルと一体化したロッキングピースを薄いスライドでカバーしたワルサー P38では不可能である。
しかし、ガイドロッドをフルサイズとしたほうが作動の信頼性は高いため、近年はガイドロッドの短小化ではなく、リアサイトの形状を工夫し、ベルトなどに引っ掛けてスライド操作を行えるよう施す設計が主流となっている。CZ75を開発したチェコのCZ社では、自社のCZ100に「バレルストップ」という専用の鉤状部品をスライド上部に設け、片手でのスライド操作を行える仕組みを採用している。
他に類似したテクニックとして、ポンプアクションのショットガンのフォアエンドを、窓枠などに引っかけて、片手で装填・発射を繰り返す技もある。
また、ポーランド製の短機関銃、Wz63では、スライドの前方を「ツノ」状に長く延長・突出させて、容易にプッシュ・ロッディングが可能なように工夫されている。量産タイプの銃でプッシュ・ロッディングに最初から対応している、珍しい例である*1。