(※)このページで記述しているOICWとは、HK XM29ページの補足説明が大部分である。
・次世代歩兵用個人火器
OICWは1990年代からアメリカが開発を進めている、4軍(陸・海・空軍と海兵隊)共用の次世代軍用小銃である。統合運用小火器プログラム(JSSAP)*1は、アメリカ軍装備研究開発製作コマンド(ARDEC)*2の一部門で、アメリカ全軍が21世紀初頭に戦場で使用する効果的な歩兵火器とその関連機器の開発を任されている。JSSAPは、OICWの発展技術デモンストレーション任務を1994年から手掛けている。
OICWの基礎研究の一部は、近い将来、歩兵の武器及び装備の実用的な統合を意図した「ランドウォーリアー プログラム*3」の中で、M16A4 MWS(モジュラー ウェポンシステム)により、すでに試みられている。これは、ほとんどがたいして変わらないスタンダード アサルトライフルだ。古いが信頼性のあるM203グレネードランチャーに赤外線映像夜間暗視装置といった複数の機器を取り付ければ、その重さは11kgにもなり、価格は35,000ドルにものぼる。
JSSAPが軍需工業界に対して、概念研究のための比較的小規模な費用投入を決定したとき、「AAI社」と「アライアント テックシステムズ社」のふたつの多企業グループチームが作業に参加し、プロトタイプの設計を担当することになった。
AAI社のチームは、機関部の一部がブルパップ型になったモジュラー構造のモデルを造っており、これはM16と同系のメカニズム及び弾薬を使う5.56mmライフルに、ブルパップタイプの20mmグレネードランチャーを組み合わせたものになっている。
アライアント テックシステムズ社*4は当初、5.56mmライフルと20mmグレネードランチャーを相互に横から接合したような構造のモデルを打ち出していた。本体右半分が5.56mmライフル、左半分が20mmグレネードランチャーになっており、上面のスコープにはレーザー測距装置が組み込まれている。
しかし結局はこれを改め、やはり5.56mmライフルの上にブルパップ型の20mmグレネードランチャーを背負わせたようなスタイルに変更した。
つまりデータベースにも記載されている、「HK XM29」とはこのモデルのことである。
注意深い評価作業の結果、1998年4月にARDECはアライアント テックシステムズ社を候補に選び、1,200万ドルの予算が決定された。ちなみにプロジェクトに参加している企業間では、OICWを「SABR*5」とも呼んでいる。
OICWは、アメリカ陸軍第25歩兵師団「トロピック ライトニング」によって、とても丁寧とはいえない扱いを受ける実践的なテストを行っている(現在も行っているかは不明)。トライアルはジャングル、砂漠、極地の環境中で行われ、研究所での成果が実戦で耐え得るものかどうかが判断される。
OICWは頑丈なカーボンファイバー製のレシーバーに収められており、取り扱い時に滑らないように表面加工されていて、ステルス性のためマットブラックに塗装され、耐水性もあり化学物質にも侵されにくく、極端な温度変化にも耐え、携行時に音を立てにくいG36の改良モデルを採用している。
この火器の重要な特徴はシンプルなことであり、極限状況下でも最小限のメンテナンスで作動するというアドバンテージがある。
・火器管制システム(FCS = Fire Control System)
ダットサイトには、電子工学を駆使した火器管制システムが使用される。OICWの注目すべき特徴のひとつは、非常に優秀な多機能マイクロプロセッサーが組み込まれていることだ。コントラバス ブラッシャーシステムズ社は、人員や車両等の目標を昼夜間探知でき、正確に目標までの距離を測定できるレーザー計測装置を組み込み、完全な弾道特性を計算し、射手に修正された照準点を示し、装填された弾薬に即座に情報を伝える、完全に統合された火器管制システム(FCS)*6を作り上げた。
FCSの頑丈なアルミニウム製ハウジング側面のくぼみに配置されたスイッチ類は、射手が手元で状況に合わせてサイトの能力を素早く最適にセットするものである。左から、視察チャンネル、信管設定、視察倍率、ダットサイトの明るさ等のオプションを設定する。加えて下記の設定も行うことができる。
・火器のカント(水平からの左右のひねり) ・弾薬タイプ(実戦弾薬かどうか)の設定
・サイトの傾き(目標又は射手が丘や高いビルの上にいる場合) ・信管の選択
・レーザーステアリング操作 ・周囲の空気の温度
・移動目標を追跡するビデオトラッカーのON/OFF ・銃口調整
・測定データの射手の調整の有無 ・ゼロイン
・コンパス測定 ・自己診断
これらすべてが、マイクロプロセッサー内でわずか1/100秒の間に計算され補正される。また、FCSからのビデオ信号は、ランドウォーリアーの「ヘルメット マウンテッド ディスプレイモジュール(サングラス型ディスプレイ)」にも表示される。これにより射手が銃付属の照準ファインダーに目を直接当てずとも、壁越しや曲がり角に隠れて、自身を敵の火線にさらすことなく、正確に火器を発射することも理論的には可能となる。
チャージングハンドルと5.56mmライフル/20mmグレネードランチャーのコントロールに必要なものすべて(排莢も含め)は、完全に左右両用になっている。トリガーハウジング回りのグループは、上左から時計回りに、マガジンリリースボタン、20mm/5.56mmセレクターレバー、セイフティ/セミ/バーストセレクターである。トリガーガード下左の黄色のタッチパネルは、レーザーレンジファインダーの作動スイッチ。その下はHE弾の爆発距離を調整するスイッチで1m単位で+/−できる。
オリジナルのG36は特別に設計されたプラスチック製マガジンを使用しているが、OICWはM16用20/30発スタンダードマガジンを採用しているので、戦場で分隊の他の兵士が装備するM16と完全な互換性がある。また緊急時には、カービンモジュールはそれだけで火器として使用することもできる。
・20mmHE榴弾
OICWのグレネードランチャーは、M203用40mm榴弾のおよそ半分のサイズである、「20mmHE榴弾(高性能榴弾)」を使用する。進歩した小型化技術によって、経済的かつ小型で優秀な多機能信管を作ることができたのが最大の特徴だ。そして、その小さな榴弾にはマイクロチップが搭載されている。信管はセッティングしないと瞬発信管モードとなる。また、目的に応じて下記の4つの種類から最適なモードを選択することもできる。
・弾幕射撃に有効な空中爆発(バースト)モード
・選択式PDモード(信管をセッティングしない場合と同じ)
・セミハードの壁等に隠れている標的に有効なPDD(遅発)モード
・レーザーで測定した目標を超えた後、射手が指定した距離で爆発するウィンドーモード
20mmHE榴弾の信管は弾頭の中心に配置され、爆発時には多数の断片となる金属で作られている。これは現在、通常使用されているほとんどのボディアーマーやヘルメットを貫徹できる破片を作り出すほどの威力がある。
・OICWの問題点
XM29やXM8の項でも述べられているとおり、現在OICW計画は凍結状態となっている。大きな理由として、予算の不足とOICW構想に対する技術不足という、ふたつの点が挙げられる。
提案によればこの火器システムの予想コストは、1挺あたり10,000ドルであり、20mmHE榴弾は大量生産されれば1発あたりおよそ25ドルとされる。現在のプランでは最低でも40,000挺のOICWと大量のHE弾が要求されるので、膨大なコストがかかる。
また技術不足に関しては、OICWの重量がフル装填状態バッテリー込みで8.172kgにもなるので、兵士にかかる肉体的疲労ははかり知れないだろう*7。
他にもバッテリーの持続時間不足、FSC本体の強度不足といった、ハイテク機器につきものである問題も挙げられる。
OICWやランドウォーリアー プログラムは、基本的には湾岸戦争で絶大な威力を見せつけたハイテク兵器の思想・運用を、歩兵レベルにまで応用しようとした試みだった。しかしその後の戦争・紛争は、イラク戦争に代表されるように正規軍と民兵組織やテログループが入り乱れる複雑な非対称戦が主となっており、ランドウォーリアー プログラムの思想は現状と乖離しつつある。
そこで求められるのはよりシンプルで扱いやすくタフな兵器であり、ある意味OICWの対局とも言えるAKシリーズがイラクで再評価されていることは、皮肉な現実と言える。
OICWの頓挫により、アメリカ軍では現用のM16やM4カービンが、改良を受けつつ今後も引き続き使用されることとなっている。あくまで「凍結状態」なので、問題が解決(小型化・軽量化の実現等)されれば、新たなOICWが誕生する可能性も否定はできないが、近い将来には望み薄の状況にある。
・新たなOICWの運用方法
兵士の肉体的疲労を軽減させる目的で、二足歩行式の搭乗型兵器(つまり戦闘ロボット)にOICWの役割を負わせる、との考えを示す専門家もいる。つまり兵士には必要最低限の装備だけを持たせ、その他の機能はすべてロボット*8の機能に組み込んでしまうというのだ。
・OICWに類似したコンセプトの銃
1990年代から2000年代初頭にかけては、湾岸戦争の影響でハイテク兵器の評価が非常に高く、米国のみならず諸外国(特にNATOなど西側諸国)でもOICWやランドウォーリアー プログラムに類似した、あるいは対抗馬的な『未来戦士構想』と、その主力となる次世代歩兵用突撃銃が研究、開発されていた。
ただこれらの銃は全くの新規設計ではなく、既存の技術や銃の応用、発展型が多いのが特徴である。その分開発コストも抑制されており、実用化、あるいはその寸前まで進んだものもある。
ここでは、その代表例を列挙する。
・FAMAS-FELIN(フランス)
・FN-F2000(ベルギー)
OICWと異なり、こちらはまだ開発継続中ではあるが、やはり『未来戦士構想』が下火となる中で今ひとつ精彩を欠いている。
F2000は近年、スロベニアからの大量受注に成功したが、自慢(?)のFCSシステムなどは排除され、オープンサイト装備のシンプルなバージョンが採用されている。
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