1972年のイスラエル選手村襲撃事件での失敗により、専門的な抗テロ部隊の必要性を実感したドイツ政府が、同年より国境警備隊内に発足させた抗テロ部隊。現在、稼動しているカウンターテロ部隊の中では精鋭中の精鋭である。創設者は、ウーリッヒ・ウェゲナー大佐(当時の階級で、後に大将にまで登り詰めた)。
隊員は連邦警察に5年以上勤務する優秀な警官であるか、国境警備隊の選抜隊員で構成され、中隊規模の3部隊(それぞれ通常/海上/空挺)編成。1977年に発生したルフトハンザ機ハイジャック事件による突入で一躍有名となった。
ただ、この部隊は国境警備隊の一部隊であり、同時にBKA(内務省・連邦刑事局、現在の連邦警察局)傘下の部隊として、隊員の身分はドイツの法律によってあくまでも警察官として扱われる。そのため、国外での事件に対しては、犯人がドイツ国籍を持っていない限り、たとえドイツ市民が危険にさらされたとしても出動することは出来ない(海外出動の事例であるルフトハンザ機ハイジャック事件では、犯人メンバーの中にドイツ国籍をもつドイツ赤軍が含まれていた)。そうした事態が発生した場合、ドイツ連邦陸軍のKSKが派遣される。
また当時のドイツ国民は、『特殊部隊』と聞くと、ナチス=ドイツ/ドイツ第三帝国のSA(ナチス突撃隊)、SS(ナチス親衛隊)、ゲシュタポ(ナチス秘密警察)等を連想し、マイナス感情を抱く者も少なくなかった。そこで、対テロ特殊部隊であるGSG9が創設されることになった際、ドイツ連邦(当時の西ドイツ)軍でなく、『準軍隊』ともいえるドイツ国境警備隊に設立されたという経緯がある。
日本のSATは、このGSG9をモデルとし、設立時には隊員がGSG9へ研修派遣されたと云われている。ただ、間違って欲しくないのは、このGSG9という部隊に出動要請が下るのはあくまでも「政治的な背景がある」と判断される場合であって、政治的背景なしと判断されればSWAT的な部隊であるSEK(ゾンダー・アイザッツ・コマンド/特別作戦コマンド)が出動して事態の収拾に当る(実際に出動する機会は少ない)。
GSG9の隊員は時折、自分たちの仕事を”火消し”と揶揄することがある。これは最近は移民排斥を唱えるネオナチのような極右組織のデモや集会を解散させる任務さえ帯びる。つまり完全武装した隊員の攻撃態勢を見せつけて、『お前達が抵抗するなら、こちらは武力で対抗するぞ』という示威行為で抑え込むというもの。これは現役の隊員に言わせると、この任務は、突入作戦や人質奪還作戦から見れば、緊張を強いられることの少ない「非常に楽な仕事」とのこと。
作戦実行時に隊員個人に支給される装備品は“フル装備の超高級車並み”と専門家に言わせるほど、高度に洗練されており実に合理的であるものの、選択の自由度は比較的高く、特にバックアップ用に使われる拳銃は隊員の個人が指定されたものの中から好きに選んでよいらしい。
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