火炎放射器 / Flamethrower †
火炎(正確には、着火した燃料)を噴射する兵器。主に戦闘工兵が使用する。
古くは古代ギリシア、中世期のビザンチン帝国などのヨーロッパや中国でも使用されたとされるが、現在の火炎放射器の原型は1901年にドイツの技師であるカール・フィドラーによって開発され1907年に軍に採用された。ドイツは第1次世界大戦でも多数の火炎放射器を配備・運用したが、当時はまだ技術的に未成熟な部分も多く、ドイツ以外の各国ではほとんど採用されなかった。火炎放射器が世界各国で多用されるようになるのは、第2次世界大戦以降のことである。
火炎放射器の基本的な構造・原理は、開発当時からほとんど変化していない。燃料(ゲル化ガソリンや重油など)を入れたタンクと、圧搾ガスのボンベをパイプで連結し、ガスの圧力で銃部(噴射器)から着火した燃料を噴射する(燃料タンクとガスボンベを一体化したものもある)。燃料には当初は普通の燃料油を使用していたが、炎が跳ね返ったり、流れ出すなどの問題があり、第二次大戦からタールなどの増粘剤(ナパーム剤)を混ぜたゲル化燃料が用いられるようになった。
それぞれの運用思想などから、ナチスドイツは兵士の背嚢の下に装備できるモデル、イギリスはドーナツ型の燃料タンクを持つモデル(通称「救命浮き輪 (lifebuoys) 」)など、各国で様々なタイプの火炎放射器が製造されたが、原理は全て同じである。
また、兵士が背負って運搬するバックパック式以外にもドイツのMFmW中型火炎放射器のような移動しやすいように車輪のついた手押しポンプ式や、1935年にイタリアで実用化された戦車などに搭載するより大型のタイプ(火炎放射戦車(Flame tank))もドイツのIII号戦車やアメリカのシャーマン火炎放射戦車、イギリスのクロコダイル火炎放射戦車など各国で開発・製造された。戦車型は防御に優れる上に射程、燃料の搭載量(噴射時間や回数)でもバックパック式や手押しポンプ式を遥かに上回り、敵の兵士を恐怖させた。
中には、イギリス軍が制作した対空用火炎放射器『The Thing』のような変わり種もあったが、これはほとんど成功しなかったと言われる。
火炎放射器の攻撃は、たとえ相手に直撃しなくとも、燃料が壁や天井などの障害物にぶつかって「跳ねる」様にまき散らされるため、見通しの利かない先にもダメージを与えることができる。加えて、炎による酸欠、煙による窒息効果、可燃物への延焼などもあり、塹壕やトーチカ、トンネルのような閉鎖空間への攻撃には絶大な威力を発揮する。たとえ炎に包まれなくとも、燃料自体の毒性・刺激性から、ひとたび皮膚に付着すれば炎症を引き起こすなど、化学兵器的な側面もある。さらには、物理的ダメージだけでなく、炎(焼死)に対する本能的な恐怖からくる精神的効果も小さくない。
その一方で、大量の可燃物(燃料)をほとんど無防備で運搬するリスクや、短い射程、燃料を一度に大量に消費することから使用時間が短い、風の向きと強さによっては火炎が自分の方に向かってくるなど、難点も多かった。他の銃火器の発達や戦闘形態の変化もあって、ベトナム戦争を境に、火炎放射器は各国の第一線から次第に姿を消していくこととなる。
しかし、アメリカのM202焼夷ロケット弾のように、火炎放射器と同様な効果を持つ兵器は現在も開発・配備されている。多くは焼夷弾、もしくはサーモバリック弾頭(一種の気体爆弾)を持つロケット弾で、大がかりなものでは、幅数十メートル、縦深数百メートルを一気に火の海にする、TOS-1「ブラチーノ」自走火炎放射システム(ロシア製自走多連装ロケットランチャー)のような怪物的な兵器まで存在する。
また、火炎放射器には軍用の他、融雪*1や除草(草焼き)に使われる民生用の物もある。これらは燃料に油ではなく、LPガスなどを用いた、言わば「特大のガスバーナー」である。作中では明言されていないが、映画『遊星からの物体X』に登場するM2火炎放射器も、南極大陸での融雪用に流用(払い下げ)されたものと考えられる。
なお、メディア上では「火炎放射器のタンクを撃つことで大爆発を起こす」というギミックがよく使用されるが、実際にはほとんどの燃料は空気と十分に混合しなければ発火しないため爆発はおろか燃焼もほぼ起きることはない。
火炎放射器の例 †
DE M35火炎放射器
US M2火炎放射器
USSR LPO-50