エングレーブとは、彫刻のこと。この場合、銃の外装に施される装飾の一種である。その歴史は古く、マッチロック銃の時代から、趣味で狩猟を行う王侯貴族のために行われていた。ガンコレクターや狩猟家など、銃器を実用品としてだけでなくステータスシンボルや嗜好品として所有する層で好まれる、一種の工芸品である。このため、一般的な美術品・工芸品のように、エングレーバーの銘入りとされる場合もある。
個人が、ガンエングレーバーと呼ばれる専門の職人に依頼して施すワンオフのものもあるが、猟銃を扱うガンメーカーでは、ライフルや散弾銃のラインナップにこうしたエングレーブモデルを加えていることも珍しくない。またスミス&ウェッソンやベレッタ、ザウエル&ゾーンなど老舗のメーカーでは、画像のように、記念モデルの自動拳銃や回転式拳銃にエングレーブを施して販売する場合もある。
ナチス幹部でドイツ空軍総司令官であったヘルマン・ゲーリングは、国家元帥へ昇進したさいに、当時の製造元の一つであったクリーグホフ社からエングレーブが施された二挺のルガー P08を贈られている。「ゲーリング・ルガー」と呼ばれるこの二挺は、サテンシルバー*1のクロームメッキ仕上げで、マルシン製モデルガンでその姿が知られるゴールド・ルガーとは異なるものだったようだ*2。
歴史的に有名な銃としては、他に第2次大戦当時のアメリカ陸軍将軍、ジョージ・パットンが所有していたコルト SAAがある。モデルこそもっとも一般的な「シビリアン」だったものの、エングレーブの他、象牙のグリップを装着するなどかなり派手な出で立ちの銃で、パットンは最前線でも常に携帯していたという。
なお、一説にはパットンは、ゲーリングの向こうを張ってエングレーブ入りの銃を持ち歩いていたとも言われているが、真偽は定かではない。
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