#author("2021-04-25T22:26:31+09:00","default:user","user")
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*ホローポイント弾 / Hollow Point Bullet [#o71d66bb]

 その名の通り、先端に空洞(ホローポイント)がある[[弾頭>弾薬]]。元々は大型の動物を狩猟する際に開発され、人体や動物などの水分の多いソフトターゲットに命中した際に、先端の空洞により貫通力が減って急減速することで弾頭が急膨張・爆発([[エキスパンション、マッシュルーミング、フラグメンテーション>フラグメンテーション]]などと呼ばれる現象)する事で、対象に弾丸のエネルギーを効率よく伝えて大きな損傷を引き起こす。
 [[ライフル>小銃]]弾の場合はその構造上、先端の窪みはかなり小さくなるため「オープンチップ(開放穴)」弾頭と呼ばれる。

 メディア上ではしばしば比較形で「[[フルメタルジャケット弾]]」が「貫通力に特化した(対人威力に劣る)弾種」、「ホローポイント弾」が「対人威力に特化した(貫通力に劣る)弾種」と説明される事が多いが、これは誤りで、対人威力に特化しているのはジャケットを持たない「[[ソフトポイント(ダムダム弾)>ダムダム弾]]」である。
 ホローポイント(オープンチップ)弾自体は、ソフトポイント弾と異なり弾頭自体は被覆して貫通力を上げつつも、その空洞構造によって対人威力をも両立した弾種である。フルメタルジャケットには貫通力では劣るものの、完全にフラグメンテーション性能に特化しているわけではない。
 また完全なソフトポイントは弾頭が滑りにくいためマガジン機構では給弾性能に劣るという問題もあり、こうした理由から対人威力を求める場合であっても多くの自動火器ではホローポイント弾が用いられる。

 こうした特性から、各社ともに貫通力・対人威力・信頼性を併せ持つとする様々な構造を考案しており、多くの弾種が存在している。

 最も一般的であるのはJHP、「ジャケテッド(全被覆)ホローポイント」である。これは文字通り、ホローポイント構造かつ弾頭自体はフルメタルジャケット弾同様に被覆されている事を示す。
 類似したものに被覆を一部に留めたSJHP「セミジャケテッド(半被覆)ホローポイント」、空洞部を鉛などの軟金属などで埋めて平坦な弾頭としたSWCHP「セミワッドカッターホローポイント」などがある。

 上記は弾丸の形状から命名された一般的な弾種であるが、弾丸メーカー各社からは商標登録された特殊形状のホロ―ポイント弾も多く存在する。以下がその一例である。

・''ブラックタロン''
 [[ウィンチェスター]]社製。「ブラック」は黒い弾頭の潤滑用酸化コーティングの色、「タロン」とは猛禽類の爪の意味である。
 ホローポイント部に若干の切れ込みが設けられており、名前の通り爪のように膨張して広がる。1993年のロングアイランドの乱射事件で使用されたことで「民間用としては過剰威力である」としてメディアバッシングを受けたが、実際にそうであるという証拠は出なかった。
 後にイメージを変更し、特徴的な黒いコーティングを除いて「SXT(Super eXpansion Technology)」、「T-シリーズ」と改名された。

・''ゴールデンセイバー''
 [[レミントン]]社製。弾頭ジャケットが若干螺旋形に捻じったような形に整形されており、着弾時のエキスパンション形状をより効果的な形にするとされている。

・''ハイドラショック(Hydra-Shok)''
 フェデラル社製。空洞内部が被覆されていないSJHP構造となっており、更に空洞の中に鉛のポスト(出っ張り)が設けられている。これが命中時のターゲット内での直進性を維持するほか、弾頭のエキスパンションを外向きに制御しより高い効果を上げるとされる。被覆にも六角形状に少し突起が設けられており、これが摩擦力を高め安定した給弾性をもたらす。
 しかし発表当時に行われた対照実験では比較的貫通力に劣るという結果が出ている。
 なおポストを持たない以外は同様の設計の同社の「HST」弾は「Hydra-Shok Two」の略称であるとする俗説があるが、実際には名称上の関係は公式には否定されており意味は明らかとなっていない。

・''ゴールドドット''
 スピアー社製。同社によれば世界初の「ボンデッド・コア(結合弾頭)」弾であるとされている。特殊な電解処理によりジャケットとコアの微細な隙間をなくすことで、高い精度と安定したエキスパンション性能があるとされる。

・''ナイクラッド''
 フェデラル社製。安価なナイロンコーティングを施したホローポイント弾。製造価格が安い利点があったが、金属被覆と比べて精度や貫通力にかなり劣るため、それほど普及せず生産は短期間で終了している。

・''スターファイアー''
 PMC社製。空洞部に星形の切れ込みが入っており、より効率よくエキスパンションを起こすとされる。

・''R.I.P(Radically Invasive Projectile)''
 G2リサーチ社製。全銅製でフラグメンテーションを起こした断片を繋げたような形状を持つ。硬い物質はエクスパンションせず貫通し、柔らかい物質に当たるとエクスパンションを起こす特性があり、貫通性能と殺傷能力を両立した弾とされる。銅を[[CNC加工>削り出し加工]]して作られるため高コストとなるのが難点。凶悪な見た目とRIP=Rest In Peace=安らかに眠れという死を連想させるネーミングから発売直後は爆発的にヒット。一時期はプレミアがつくほどの人気があったが、他のホローポイント弾より革新的に高性能というわけではないと判明し、下火となった。([[フラグメンテーション]]のページにも解説あり。)

・''EFMJ(エキスパンディング・フルメタルジャケット)''
 フェデラル社製。厳密にはホローポイントではないが、ホローポイント弾の弱点を解決するため開発された弾種である。
 前述の通り、ホローポイント弾は対人威力と貫通力を兼ね備えた弾種であるが、その構造上唯一弱点がある。
 それはガラス(特に建物や車の窓)や石膏など、衝突時に粉々に砕けて空洞に詰まってしまうような薄い障害物を貫通した際、ダメージを与えたい対象に到達した時には、空洞の詰まりで抵抗が減じてエキスパンションが起きず、ダメージが低下してしまうことである。
 EFMJ弾は構造的には通常のFMJ弾であるが、弾頭のコアとして[[ポリマー>ポリマーフレーム]]を使用しており、これが重い物体に衝突した際には圧力で先に潰れることで高い抵抗を発揮し、エキスパンションを起こすよう設計されている(仕組み上は[[ソフトポイント>ダムダム弾]]に近い)。
 ホローポイントと異なり完全にFMJ弾とソフトポイント弾の中間的特性を持つといえる弾種であるが、以下の2点が問題視されている。
 
 ・''重い物体への貫通力''
   前述通り、重い物体に衝突すると人体かどうかに関係なくエキスパンションが起きるため、重く厚い障害物を貫通する能力は逆にホローポイント弾より低い。
 
 ・''弾頭が軽い''
   ポリマーが弾頭に含まれるため、構造上どうしても弾頭が軽くなってしまう設計である(具体的には同体積のFMJ弾頭比で約20%程度軽量)。
  このため当然ながら単純な威力・貫通力が減少するだけでなく、現在主流である発射反動を利用する[[ショートリコイル]]式自動拳銃においては動作力不足となる傾向もある。
 
  ただしいずれの特性も、むしろ二次被害率や殺傷率を下げるという点では好都合だと考えられている場合もある。



//・''オールレッド ホローポイント(HP)''
//ホローポイント弾の基本形。文字通りの『All Lead(全鉛製)』で、弾頭が軟らかいため目標命中時に大きく変形する。一方、軟らかく溶けやすいため[[自動拳銃]]での使用には適しておらず、現在ではあまり用いられなくなっている。
//・''セミジャケッテッド ホローポイント(SJHP)''
//弾頭の先端部以外を銅や真鍮などで被甲(カバー)したホローポイント弾。銃身内部などと接触する部分が硬いメタルで包まれているため、自動拳銃でも使用可能。
//・''ジャケッテッド ホローポイント(JHP)''
//先端部分まで被甲されたホローポイント弾。貫通力がやや高い一方、弾頭が変形しにくいが、自動拳銃でも無理なく使用可能。SJHPと並んで、現在のホローポイント弾の主流である。
//↑最初に「一般的な弾種」として紹介、後述の商標登録された弾頭と区別するため除外。

//・''シルバーチップ''
//[[ウィンチェスター]]社製のLE(法執行機関)用ホローポイント弾。命中時により大きく変形するよう真鍮の代わりに、アルミ、もしくはニッケル・亜鉛合金で被甲されている。弾頭が銀色をしているため、『シルバーチップ』の名がある。[[マイアミ銃撃事件]]の項も参照のこと。
//↑シルバーチップはオープンチップ構造ではなく関係ないため除去。

 国際法上では、[[ハーグ陸戦条約]]において「国家間闘争」において「高い膨張能力を持つ弾頭」の使用自体を禁じる項目が存在するが、アメリカはこの項目には批准しておらず、また近年増加した対ゲリラ・テロリスト戦闘においては条約自体が適用されないため、軍隊でも部分的に使用されている。
 法執行機関ではその[[ストッピングパワー]]と、対象を貫通して二次被害をもたらしにくいことから主流の弾薬となっている。

 メディア上でもしばしば対人威力の高い弾種として登場するが、「通常弾頭に十字の切れ込みを入れる」などの方法でホローポイント弾になると説明されるなど、誤ったギミックとして使用されている事も多い。

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