*OICW(Objective Individual Combat Weapon : 個人主体戦闘火器) [#s5607fa0]

(※)このページで記述しているOICWとは、[[HK XM29]]ページの補足説明が大部分である。

#ref(type01.jpg,center,nolink,アライアント テックシステムズ社製プロトタイプ)

&size(20){''・次世代歩兵用個人火器''};
 OICWは1990年代からアメリカが開発を進めている、4軍(陸・海・空軍と海兵隊)共用の次世代軍用[[小銃]]である。統合運用小火器プログラム(JSSAP)((Joint Service Small Arms Program))は、アメリカ軍装備研究開発製作コマンド(ARDEC)((US Army's Armament Research Development and Engineering Command ))の一部門で、アメリカ全軍が21世紀初頭に戦場で使用する効果的な歩兵火器とその関連機器の開発を任されている。JSSAPは、OICWの発展技術デモンストレーション任務を1994年から手掛けている。
 OICWの基礎研究の一部は、近い将来、歩兵の武器及び装備の実用的な統合を意図した「ランドウォーリアー プログラム((歩兵は司令部の情報システムと連結され、同様の情報システムを搭載したヘリや戦闘車両とリンクした上で行動するという、次世代統合型歩兵戦闘システム。))」の中で、[[M16A4 MWS(モジュラー ウェポンシステム)>コルト AR15]]により、すでに試みられている。これは、ほとんどがたいして変わらないスタンダード アサルトライフルだ。古いが信頼性のある[[M203グレネードランチャー>コルト M203]]に赤外線映像夜間暗視装置といった複数の機器を取り付ければ、その重さは11kgにもなり、価格は35,000ドルにものぼる。
 JSSAPが軍需工業界に対して、概念研究のための比較的小規模な費用投入を決定したとき、「AAI社」と「アライアント テックシステムズ社」のふたつの多企業グループチームが作業に参加し、プロトタイプの設計を担当することになった。
 AAI社のチームは、機関部の一部が[[ブルパップ]]型になったモジュラー構造のモデルを造っており、これは[[M16>コルト AR15]]と同系のメカニズム及び弾薬を使う[[5.56mm>口径]]ライフルに、ブルパップタイプの20mmグレネードランチャーを組み合わせたものになっている。

#ref(type02.jpg,right,around,nolink,アライアント テックシステムズ社製プロトタイプ)

 アライアント テックシステムズ社((アメリカ陸軍に対する各種弾薬・火器システムの主要供給会社。))は当初、5.56mmライフルと20mmグレネードランチャーを相互に横から接合したような構造のモデルを打ち出していた。本体右半分が5.56mmライフル、左半分が20mmグレネードランチャーになっており、上面の[[スコープ]]にはレーザー測距装置が組み込まれている。
 しかし結局はこれを改め、やはり5.56mmライフルの上に[[ブルパップ]]型の20mmグレネードランチャーを背負わせたようなスタイルに変更した。
 つまりデータベースにも記載されている、「[[HK XM29]]」とはこのモデルのことである。

 注意深い評価作業の結果、1998年4月にARDECはアライアント テックシステムズ社を候補に選び、1,200万ドルの予算が決定された。ちなみにプロジェクトに参加している企業間では、OICWを「SABR((Selectable Assault Battle Rifle))」とも呼んでいる。

 OICWは、アメリカ陸軍第25歩兵師団「トロピック ライトニング」によって、とても丁寧とはいえない扱いを受ける実践的なテストを行っている(現在も行っているかは不明)。トライアルはジャングル、砂漠、極地の環境中で行われ、研究所での成果が実戦で耐え得るものかどうかが判断される。
 OICWは頑丈なカーボンファイバー製のレシーバーに収められており、取り扱い時に滑らないように表面加工されていて、ステルス性のためマットブラックに塗装され、耐水性もあり化学物質にも侵されにくく、極端な温度変化にも耐え、携行時に音を立てにくい[[G36>HK G36]]の改良モデルを採用している。

&size(20){''・火器管制システム''(FCS = Fire Control System)};
 コントラバス ブラッシャーシステムズ社は、人員や車両等の目標を昼夜間探知でき、正確に目標までの距離を測定できるレーザー計測装置を組み込み、完全な弾道特性を計算し、射手に修正された照準点を示し、装填された弾薬に即座に情報を伝える、完全に統合された火器管制システム(FCS)((FCS本体は、煙草ケースとほぼ同じ大きさのケースの収められ、改良型のBB2847リチウムバッテリーを加えて2.27kgの重さとなる。))を作り上げた。
 FCSの頑丈なアルミニウム製ハウジング側面のくぼみに配置されたスイッチ類は、射手が手元で状況に合わせてサイトの能力を素早く最適にセットするものである。左から、視察チャンネル、信管設定、視察倍率、[[ダットサイト]]の明るさ等のオプションを設定する。加えて下記の設定も行うことができる。

 ''・火器のカント(水平からの左右のひねり)''                 ''・弾薬タイプ(実戦弾薬かどうか)の設定''
 ''・サイトの傾き(目標又は射手が丘や高いビルの上にいる場合)''  ''・信管の選択''
 ''・レーザーステアリング操作''                          ''・周囲の空気の温度''
 ''・移動目標を追跡するビデオトラッカーのON/OFF''          ''・銃口調整'' 
 ''・測定データの射手の調整の有無''                      ''・[[ゼロイン]]''
 ''・コンパス測定''                                    ''・自己診断''

 これらすべてが、マイクロプロセッサー内でわずか1/100秒の間に計算され補正される。また、FCSからのビデオ信号は、ランドウォーリアーの「ヘルメット マウンテッド ディスプレイモジュール(サングラス型ディスプレイ)」にも表示される。これにより射手が銃付属の照準ファインダーに目を直接当てずとも、壁越しや曲がり角に隠れて、自身を敵の火線にさらすことなく、正確に火器を発射することも理論的には可能となる。

 チャージングハンドルと5.56mmライフル/20mmグレネードランチャーのコントロールに必要なものすべて(排莢も含め)は、完全に左右両用になっている。
 オリジナルのG36は特別に設計されたプラスチック製マガジンを使用しているが、OICWはM16用20/30発スタンダードマガジンを採用しているので、戦場で分隊の他の兵士が装備するM16と完全な互換性がある。また緊急時には、カービンモジュールはそれだけで火器として使用することもできる。

&size(20){''・''20mmHE''榴弾''};
 OICWのグレネードランチャーは、[[M203>コルト M203]]用40mm榴弾のおよそ半分のサイズである、マイクロチップを搭載した「20mmHE榴弾(高性能榴弾)」を使用する。信管はセッティングしないと瞬発信管モードとなる。また、目的に応じて下記の4つの種類から最適なモードを選択することもできる。

 ''・弾幕射撃に有効な空中爆発(バースト)モード''
 ''・選択式PDモード(信管をセッティングしない場合と同じ)''
 ''・セミハードの壁等に隠れている標的に有効なPDD(遅発)モード''
 ''・レーザーで測定した目標を超えた後、射手が指定した距離で爆発するウィンドーモード''

 20mmHE榴弾の信管は弾頭の中心に配置され、爆発時には多数の断片となる金属で作られている。これは現在、通常使用されているほとんどの[[ボディアーマー]]やヘルメットを貫徹できる破片を作り出すほどの威力がある。

&size(20){''・''OICW''の問題点''};

#ref(testgun.jpg,right,around,nolink,アバディーン試験場での部隊試験)

 XM29や[[XM8>HK XM8]]の項でも述べられているとおり、現在OICW計画は凍結状態となっている。大きな理由として、予算の不足とOICW構想に対する技術不足という、ふたつの点が挙げられる。
 提案によればこの火器システムの予想コストは、1挺あたり10,000ドルであり、20mmHE榴弾は大量生産されれば1発あたりおよそ25ドルとされる。現在のプランでは最低でも40,000挺のOICWと大量のHE弾が要求されるので、膨大なコストがかかる。
 また技術不足に関しては、OICWの重量がフル装填状態バッテリー込みで8.172kgにもなるので、兵士にかかる肉体的疲労ははかり知れないだろう((陸軍の目標は、システム重量を1.8kg以下に低減することだったようだ。))。
 他にもバッテリーの持続時間不足、FSC本体の強度不足といった、ハイテク機器につきものである問題も挙げられる。

 OICWやランドウォーリアー プログラムは、基本的には[[湾岸戦争]]で絶大な威力を見せつけたハイテク兵器の思想・運用を、歩兵レベルにまで応用しようとした試みだった。しかしその後の戦争・紛争は、イラク戦争に代表されるように正規軍と民兵組織やテログループが入り乱れる複雑な非対称戦が主となっており、ランドウォーリアー プログラムの思想は現状と乖離しつつある。
 そこで求められるのはよりシンプルで扱いやすくタフな兵器であり、ある意味OICWの対局とも言える[[AKシリーズ>USSR AK47]]がイラクで再評価されていることは、皮肉な現実と言える。

 OICWの頓挫により、アメリカ軍では現用のM16や[[M4カービン>コルト M4]]が、改良を受けつつ今後も引き続き使用されることとなっている。あくまで''「凍結状態」''なので、問題が解決(小型化・軽量化の実現等)されれば、新たなOICWが誕生する可能性も否定はできないが、近い将来には望み薄の状況にある。

&size(20){''・新たな''OICW''の運用方法''};
 兵士の肉体的疲労を軽減させる目的で、二足歩行式の搭乗型兵器(つまり戦闘ロボット)にOICWの役割を負わせる、との考えを示す専門家もいる。つまり兵士には必要最低限の装備だけを持たせ、その他の機能はすべてロボット((ここで言うロボットとは必ずしも人型とは限らず、[[メタルギアソリッド4>メタルギアソリッド]]の「メタルギア月光」や[[バトルフィールド2142>バトルフィールド]]の「バトルウォーカー」といった、文字通り二足歩行型ロボット等も該当するだろう。また、所謂、『パワードスーツ』も、OICW関連、ランドウォーリアー関連の装備品の重量化等から、研究が進められている(参考として、恐るべきことに、ランドウォーリアーの一式の総重量:約40kgと、従来の個人装備:約10kgで、50kgも超過してしまう試算さえ存在する)。))の機能に組み込んでしまうというのだ。

&size(20){''・''OICW''に類似したコンセプトの銃''};
 1990年代から2000年代初頭にかけては、湾岸戦争の影響でハイテク兵器の評価が非常に高く、米国のみならず諸外国(特にNATOなど西側諸国)でもOICWやランドウォーリアー プログラムに類似した、あるいは対抗馬的な''『未来戦士構想』''と、その主力となる次世代歩兵用[[突撃銃]]が研究、開発されていた。
 ただこれらの銃は全くの新規設計ではなく、既存の技術や銃の応用、発展型が多いのが特徴である。その分開発コストも抑制されており、実用化、あるいはその寸前まで進んだものもある。
 ここでは、その代表例を列挙する。
 ・[[FAMAS-FELIN>GIAT ファマス]](フランス)
 ・[[FN-F2000>FN F2000]](ベルギー)

 OICWと異なり、こちらはまだ開発継続中ではあるが、やはり『未来戦士構想』が下火となる中で今ひとつ精彩を欠いている。
 F2000は近年、スロベニアからの大量受注に成功したが、自慢(?)のFCSシステムなどは排除され、[[オープンサイト]]装備のシンプルなバージョンが採用されている。

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CENTER:[[Alliant Techsystems>http://www.atk.com/]]及び[[Heckler&Koch USA>http://www.hecklerkoch-usa.com/]]が有しています。
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