*象撃ち銃 / Elephant gun
 象撃ち銃は、猛獣狩り(big game hunting)に使用される大口径銃の総称である。象(を含む大型動物)を狩ることが目的なので、このような名称で呼ばれる。[[シングルショット]]ライフルや[[二連式>二連式散弾銃]]ライフル、[[ボルトアクション]]ライフルなどが該当する。

 19世紀初期、ヨーロッパ人はアフリカ探検で大型動物と遭遇した際に対処出来る、携行可能な銃を持ち込んでいた。最初の銃は鳥撃ち用の前装式散弾銃で、鉛のボール弾を使用するものだった。しかし、ある狩猟者によると、一頭の象を仕留めるのに35発以上も弾丸を使ったという。「厚皮動物を仕留めるためには、より大きな銃を」と考えたガンスミスたちは、火薬の量を増やし、重量のある弾丸(鉛のボール弾や円錐型スラッグ弾)を使用する滑空銃を開発する。これらは黒色火薬時代(1850〜1890年)の象撃ち銃として知られている。だが、これほど強力な弾薬にも関わらず初速は遅く、象の頭蓋骨を貫通させることはできなかった。黒色火薬と鉛弾では、初速と貫通力の面で限界がきていたのだ。

 19世紀後半、[[ジャケット弾>フルメタルジャケット弾]]と無煙火薬が登場したことで猛獣狩りのスタイルが変化する。特に、初速・貫通力で抜きんでたニトロエクスプレス弾をはじめとする、大口径のマグナムライフル弾が登場したことで、それ以前の象撃ち銃は姿を消してしまった。また、.50 BMGなど[[重機関銃]]用の弾薬を使用する象撃ち銃を製作するガンスミスもいた。

 代表的な象撃ち銃用の弾薬
・ Nitro Expressシリーズ(.600 NE、.700 NEなど)
・.416 Remington Magnum
・.458 Winchester Magnum
・.460 Weatherby Magnum 
・.577 Tyrannosaur

 これら強力な弾薬の登場で、大型動物を仕留める確率は格段に上昇した。十分な貫通力・ストッピングパワーは、全ての象撃ち銃に共通のコンセプトである。しかし、猛獣狩りにおいて重要なのは[[弾薬の威力]]だけではない。重すぎる銃は運搬が大変で、素早く移動する動物に狙いを付けるのが難しくなるからだ。象牙乱獲などで狩猟が禁止となった以降の象撃ち銃の役目は、猟区管理人やツアーガイドのハンターが携行するバックアップ用銃へと変わった。

 象撃ち銃は、猛獣狩りだけではなく戦争でも使用された。第一次世界大戦、イギリスとドイツの両軍は塹壕戦の手詰まり感を打破するために、アフリカの植民地から象撃ち銃を調達している。イギリス軍の象撃ち銃は、ドイツ軍のスチール製防弾プレート(歩兵が前進時に携行する防具で、普通の小銃では太刀打ちできない)を貫通させることに成功。対するドイツ軍も、[[M1918 対戦車ライフル>小銃/マウザー M1918]]を使ってイギリス軍の戦車を破壊した。
 第二次世界大戦のアフリカ戦線では、イタリア軍の司令官・アオスタ侯アメデオ皇太子が、自身のコレクションである象撃ち銃を部下たちに支給し、イギリス軍の装甲車を破壊させている。

 ちなみに、20mm対戦車ライフルの[[ラティ m/39]]は、[[継続戦争]]で発揮した威力から“ノルスピッシィ(Norsupyssy = Elephant Gun)”の愛称を持つ。ただし、猛獣狩り用に設計された銃ではないので、正確な意味での象撃ち銃ではない。
----
#pcomment



トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS