筒状の薬莢(ショットシェル)内に弾丸(ペレット)が数個〜数百個納められた「散弾」を使う銃の総称。対象や目的に応じたさまざまな弾種がある。
散弾銃は、二連式散弾銃のように狩猟用や競技用としてポピュラーである。
アメリカでは特にその歴史を通じて象徴的な武器であり、狩猟・対人戦の双方で大いに使われた。アメリカ英語では助手席のことを「ショットガン」と呼ぶことがあるが、これは開拓時代、銀行の現金輸送馬車が常に助手席に散弾銃を持った警備員を乗せていたことに由来する。
こうした国民的な慣習から米比戦争以来、戦場に散弾銃を持ち込んできたのもアメリカである。第一次世界大戦が始まると、アメリカ軍によって制式火器として持ち込まれた散弾銃が、塹壕内の近接戦闘で威力を発揮した。
通常、発射された散弾は拡散するため、多少の目見当でも命中させることできる。初速が低くペレット一発一発の威力は大きくはないため、ペレットの小さなバードショットは暴徒鎮圧にも使われてきた。いっぽう至近距離で命中すると、拡散し切らないうちに大量の弾丸を集中して浴びせることになるため、対象は激しい破壊痕、または凄惨な銃創を残すことになる。被弾すると治療が難しく、激しい苦痛を伴う残虐性から、第一次・第二次世界大戦では兵士たちに恐れられた。
特に第一次世界大戦の塹壕戦においてはその面制圧力は非常に有効であり、ドイツ軍は「トレンチガン(散弾銃)を持った敵兵を捕虜にしたらその場で射殺しても構わない」、「散弾銃はハーグ陸戦条約に違反している」などといったプロパガンダで散弾銃を禁止させようと試みたほどであった。もっともこれは多くの俗説に反して、そもそもハーグ条約には特定の銃火器を禁止する項目はない*1ため、この訴えは審議された事はない。
第一次世界大戦における有効性から第二次世界大戦前後は多くの国で使用された。英国が冷戦時代、内紛や植民地における戦闘で各種銃火器を使用して得られたデータによると、アサルトライフルは11発に1回、5点射で用いた短機関銃は8発に1回という命中率であったが、散弾銃はおよそ5発に1回と非常に高い命中率を示したという。
なお散弾自体は確かに強力な弾薬ではあるものの、映画やゲームなどではまるで大砲のような些か誇張された火力を持つように描かれる事も多い。実際にはどれほどバレルを切り詰めたショットガンでも弾の拡散する範囲は20m先で50cm四方程度が限界であり、また装薬のエネルギー自体も12ゲージでは強力なもので7.62mm×51 NATO弾と同等、一般的な8粒入り00-バックショット弾では一つ一つのペレットの威力は自動拳銃用の9mmパラベラム弾程度である。無論対人用途としては十分に強力であるが、一発で何人もの人間を吹き飛ばすような威力は無い。
また粒状の弾をライフリングによる回転なしで発射する関係上、弾の貫通能力も低いため、ノースハリウッド銀行強盗事件のように防弾チョッキで身を固めた相手にはダメージを与えられなかった事例もある。これに関連して有効射程もライフルに比べれば短く、散弾であれば70m程度、スラッグ弾でも100m程度でエネルギーが半減する。ただしそれでも拳銃よりは有効射程は長い。
以上のような特性から、ボディアーマーの普及したベトナム戦争以降は軍用の武器としてはやや目劣りするものとなった。散弾の命中率に目を付けた米軍が歩兵の主力武器として研究していた事例(CAWS計画)もあるが、上記のような射程や貫通力の問題はクリア出来ず計画は中止されている。
散弾銃に用いられる実包は、射撃時に「壊れて」内容物を解放する仕組みになっているため、金属製の薬莢やジャケットを持つ銃弾に比べて脆い。また「散弾」を発射する都合上、発射時のバレル内のガス圧が安定しない為、ガス圧作動などを利用した機械的な装填方式に向かない。このため、装弾方式は中折れ式手動装填やポンプアクションなど、他の現代的な銃火器に比べて人力を利用したものが多い。しかし近年は製造技術の向上により、セミオート式やマガジン給弾式のショットガンも登場している。
散弾銃は、威力や使い勝手の異なるさまざまな弾種が扱えることから、各国の警察組織でも採用されている。対象の制圧(殺傷)よりも、威圧効果や、暴徒鎮圧用に非致死性(ノンリーサル)ゴム弾を使用したり、ドアブリーチ(屋内突入時にドアのヒンジやロックを破壊すること)を行うためである。
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