ポリマーフレーム/polymer frame

 合成樹脂(要するにプラスチック*1)で製造されたフレーム。『ポリマー』とは、化学的には『重合体』、『高分子化合物』の事だが、この場合は強化プラスチックやナイロン素材などをさす。
 銃火器のような強度を必要とする工業製品に、軟弱なプラスチックを用いるなど従来では考えられなかったが、実際にはグリップパネルや、マガジンバンパーなど、それほど強度を要しない部品も少なくない。一方、プラスチックの方は技術の向上により徐々に耐久性を増し、発砲の激しい衝撃に耐えうる素材も登場し始めていたのである。
 機は熟していたが、実際に使用するとなると簡単には進まなかった。拳銃で初めて一体成型のポリマーフレームを採り入れた*2のは、H&K社のVP70だったが、あまりにも特殊な性格の銃だったため一般には受け入れられず、成功しなかった。
 ポリマーフレーム拳銃で初の成功作となったのは、オーストリアのグロック17である。VP70と異なり、軍・現場の意見・要望を生かして開発されたグロック17は、斬新ながらも決して奇抜な銃ではなく、非常に合理的に設計されていた。グロックの優れた資質は、ポリマー素材の強度に懐疑的だったユーザーにも次第に受け入れられていき、同時にポリマーフレームも広く認知されることとなった。このためグロック17は、(実際には2代目であるにもかかわらず)ポリマーフレーム拳銃の元祖と誤解されている。
 またほぼ同時期に、突撃銃ではレシーバーをポリマー製とした、同じくオーストリアのシュタイアー?社製AUG?が登場。こちらも成功を収め、ライフル短機関銃でも、本体構造部にポリマー素材を用いたものが現れるようになった。

 素材加工や生産設備にある程度の技術力・工業力・資金力を要するものの、金属加工にくらべ大きなエネルギーを必要とせず、複雑な形状の部品を短時間にかつ大量に成型可能なので、生産性は非常に高い。また経年劣化にも強いため耐候性・整備性もよい*3。金属と異なり熱伝導性が低いため、射手に火傷や凍傷を負わせる恐れもない、とメリットは数多い。また変わったところでは、樹脂自体に着色して様々なカラーバリエーション(例えば砂漠迷彩のデザートイエローなど)を作ることも可能である(塗装と違って使い込むうちに色がはげるといったこともない)。
 受け入れられるまでは時間を要したが、これらのメリットが認知されるに従って、各国各社から次々とポリマーフレームの銃が開発・生産されるようになっている。最近では素材の向上に伴って、H&K G36などのように、ハンマーや機関部など、従来は避けられていた部品にもポリマー素材が用いられるようになってきている。
 しかし、金属フレームに比べ脆弱なことは変わりなく、強度の確保のためにポリマーフレームは従来のそれと比べ肥大化しがちである。グリップパネルなどを一体成形することで強度はある程度補えるが、今度はパネルを分割することが出来なくなり、ユーザーの手のサイズに合わせた配慮が難しかった。
 この点はワルサー P99が、グリップのバックストラップを手のサイズに合わせて交換するという解決策を打ち出した。さらに近年では、グリップパネルの分割・交換が可能な製品も現れ始めている。またH&K USPは、フレームに各種のアクセサリーを装着できるマウントレールを設けるなど、様々な改良が各社から提案され、ポリマーフレームは今も進化を続けている。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • そういえば3Dプリンターで銃身から機関部まで全てフルポリマー拳銃を作られたらしいですね。 -- 2013-05-18 (土) 22:45:42
  • 機関部までポリマーって大丈夫なんだろうか。 -- 2013-05-18 (土) 23:51:04
  • なんだったか忘れたけど機関部の一部にポリマーを使ったライフルが既にあったと思う、パーツ次第では実用レベルでも耐えられるってことだと思うよ
    ポリマーと一言に言ってもいろいろあるから強度なんかも一概には言えないし、特殊拳銃としては十分な強度を確保できるのかも -- 2013-05-19 (日) 00:01:14
  • と言うか本文に書いてあったね、G36だ
    失礼 -- 2013-05-19 (日) 00:03:38
  • 実銃の構造はよく知らないけど、強度を確保するなら価格は上がってしまうだろうがカーボンをフレームなどの素材として使うとか、メインフレーム部分の金属と樹脂のパーツを組み合わせて強度とコスパ性能を確保するとか、というのはどうだろう? -- 車とラジコン勢のガンオタにわか? 2013-11-02 (土) 17:49:39
  • ↑エアガンですね。分かります(´ω`) -- TPQ? 2013-11-02 (土) 18:18:28
  • カーボンなんか発砲時の衝撃ですぐ割れてしまう。金属や樹脂にはある程度の柔らかさがあるから衝撃に耐えられるけどさ。「メインフレーム部分の金属と樹脂のパーツを組み合わせて強度とコスパ性能を確保する」これは戦後の銃器開発のトレンドとも言えるね。脱木材・軽量化・コストカット。 -- 2013-11-04 (月) 09:11:27
  • 銃身までポリマーだと、燃焼ガスの熱と圧力に耐えられない。単発射撃が限界。ttp://www.youtube.com/watch?v=A8EDr3ZDtL0 というか簡単に手に入らないのは、銃でも火薬でもなく「雷管」。銃なんて適当な鉄パイプの尻にスプリングと針を付ければ、撃てるものになるんだから。 -- 2013-11-06 (水) 19:57:21
  • ポリマーが普及したのは本文の理由に加え、「発射音や作動音を吸収するため射手に優しい」からと聞いたことがあります。小火器に使用されるポリマーにそのような事実はあるのでしょうか? -- 2015-09-26 (土) 18:26:45
  • 3Dプリンター製の拳銃などについて追記しました。 -- 2018-08-29 (水) 11:55:50
お名前:

*1 さらに付け加えると、「プラスチック」という名前はもともと「plastic/可塑性」を意味する形容詞から転じた言葉で、本来ならば「プラスチックマテリアル」とするのが正しい。
*2 ポリマー素材をフレーム(の一部)に採り入れた、という意味でなら同H&KのP9Sのほうが早い。
*3 他の樹脂製品と同じく数十年経つと急激に劣化するという説もあるが、ポリマーフレーム自体の歴史がまだ浅いので、何とも言えないところだ。

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