#author("2018-12-21T17:47:34+09:00","default:user","user")
*ボディアーマー / Body armor [#cfc16bb2]

 防弾ベスト(Bullet-pnoof vest)あるいは防弾チョッキ((余談になるが、チョッキとは素肌の上に直接着ることを指す直着が語源である))とも呼ばれる、主に胴体を銃弾や[[手榴弾]]などの爆弾の破片からの防護を目的とした鎧の一種。俗にいうボディアーマーという語は、本来古くからの鎧全般を差し、防弾を目的としたものをバリスティックベスト(Ballistic vest)(防弾ベスト)と呼ぶ。近年の物は銃弾だけではなくナイフなどの刃物類を防ぐためにチタン合金板などの防刃対策も施されているのが一般的である。

 19世紀末に発明され、1943年にナイロンと鋼板を使った現在の物が作られ、第二次世界大戦後アメリカを主とした各先進国のあいだで普及し始める。その材質も鋼板から、より軽量かつ高性能を求めてベトナム戦争後の1980年代に登場したケプラー繊維((アラミド繊維とも呼ばれる))やポリエチレン繊維のスペクトラ、最近ではザイロンといった繊維を束ねたもの(俗に云うソフトアーマー)やケブラーの二倍の強度を持つPBO繊維、ファイン・セラミックなど用いた防弾板との組み合わせへと進化している。


 国際規格(NIJ規格0101.03)で決まっているボディアーマーの防弾性能は下表参照。

|防御クラス|ストップ可能な銃弾レベル|h
|~I|[[.22LR>口径]]|
|~II-A|[[9mm、.40S&W、.45ACP>口径#PistolAmmo]]|
|~II|[[9mm、.357Magnum>口径#PistolAmmo]]|
|~III-A|[[.357SIG、.44Magnum>口径#PistolAmmo]]|
|~III|[[7.62mmx51>口径#RifleAmmo]]|
|~IV|[[.30-06>口径]][[徹甲弾>アーマーピアシング弾]]|

 
 繊維素材を用いたソフトアーマーは多くはベスト状に形成されており、比較的軽装で上衣の下に重ね着可能な単体のものと、防弾板や各種ポーチ類を組み合わせられるプレートポケット等を備えた、衣服の上に着るものの2種類がある。フィクションでは、上衣なしでシャツの下に着込んでいても外見から全く分からないものも登場するが、実際にはソフトアーマーだけでも相応の厚みと重量があり、はっきりとした着膨れが見て取れる。
 ソフトアーマー単体であれば比較的軽量で身動きを取りやすいが、それだけでは弾が貫通しないだけで、強力な衝撃があれば重篤な打撲や骨折に繋がる可能性が高い。そのため、必要であればソフトアーマー単体では防ぎ切れない着弾の衝撃を緩和吸収するとともに、強力な弾丸の貫通を防ぐ防弾板が併用される。これはトラウマ(外傷)プレートやトラウマパッドと呼ばれ、セラミックや金属、あるいは耐衝撃に特化した[[プラスチック>ポリマーフレーム]]などの高分子材料で形成される。アメリカ軍で使用されているSAPIプレート等がセラミック製プレートとして代表的である。
 また、防弾板は表面に当たった弾が滑って腕などを傷付けたり、逆に裏面が砕けて内部を傷付けたりする可能性があるため、ケプラーなどの防弾繊維で軽く覆って、滑りや破片を防ぐようにしたものが現代では一般的である。
 
 最新の防弾板を用いたボディアーマーは、ライフル弾のゼロ距離射撃の貫通を防ぐほどの性能に達しているが、重量は最大で十数kgにも達するため、重くかさばる点は依然として変わらない。
 防弾性能と機動力のどちらを重視したボディアーマーを用いるかは組織の方針や部隊・作戦の特性によって異なる。このためソフトアーマーと、防弾板を仕込んだプレートキャリアをそれぞれ用意し、状況に応じて重ね着するかいずれかを単体で着用するかを使い分けているケースも多く見られる。
 またボディアーマーはその性格上、通気性は皆無に等しく((ソフトアーマーは濡れると防弾性能が低下する。))長時間の着用は訓練された者でも大きな負担となる。このため、イラク戦争のころからボディアーマー下の着用を前提としたコンバットシャツと呼ばれる衣服が登場している。これはBDUのボディアーマー下部位のみを薄手のTシャツのような生地に置き換えたもので、通気性をある程度向上させ負担を軽減することから、アメリカ軍をはじめ各国の軍で導入が行われている。

 かつて日本を含め犯罪組織でよく使用された[[トカレフ>USSR トカレフ]]等に使われる7.62mmトカレフ弾(特にロシア製)には、鉛でなく安価な軟鉄を弾頭にした貫通力の高いものが多く、各国警察機関でソフトアーマーを無効化する弾丸として恐れられた。
 アメリカでは拳銃弾の新製品が「コップ・キラー(警官殺し)」と呼ばれる、ボディアーマーを無効化する弾薬だとする都市伝説が頻繁に発生しており、中にはメディアによるバッシングや銃規制運動などの社会現象にまで発展した事例もある。
 例えば「銃身の磨耗を減らす」目的で施された弾頭のテフロン樹脂コーティングが高い貫通力を持つとされたKTW社の拳銃弾は、後の検証で実際は貫通力はむしろ低下すると示されたにもかかわらず、メディアバッシング時に適用された法令により現在でも幾つかの州で規制対象となっている。

 現在主流のボディアーマーは、上述したベストと防弾板によるシンプルなものであるが、柔軟性や軽量性と高い防弾性能を両立させる為の研究も進められている。
 例えば「ドラゴンスキン」と呼ばれる物は、ベスト全体に無数の小型鱗状プレートを配置した中世のスケイル・メイルのような構造をしており、着弾したプレートの下にあるプレートに衝撃を次々伝播させる事で、薄く軽量な金属板に衝撃緩和能力を持たせている。また、衝撃によって硬化するダイラタンシー流体などを用いた液状防弾素材のボディアーマーも登場している。
 いずれも従来のプレートタイプと異なり防弾部が柔軟なので身動きが取りやすいだけでなく、プレートの隙間や関節部などの今まで守るのが困難だった位置もカバー可能という点で優れている。
  
 余談になるが、戦国時代の武将の鎧は南蛮胴と呼ばれる[[火縄銃]]の弾を受けても貫通しないように鉄板を使って作られたものも多く、またヨーロッパの胸甲騎兵の鎧も銃弾を防ぐためのテストが行われており、これらも一種の防弾ベストともいえよう。
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