#author("2020-12-03T23:47:35+09:00","default:user","user")
*ポリマーフレーム / Polymer frame [#b4f32db1]
 ''主に石油を原料とした合成樹脂(要するにプラスチック)で製造されたフレーム''。
 『ポリマー』とは、化学的には『重合体』あるいは『高分子化合物』の事だが、この場合は強化プラスチックやナイロン素材などをさす。

**ポリマーフレームの歴史 [#vc6a12ee]
 1862年に最初のプラスチックであるパーシケンが発明され、その後1907年に工業用ポリマーであるベークライトが登場した。
 耐水・耐腐蝕性が高い、複雑な成型が手早く行えるなどの利点は素晴らしかったものの、流石に強度面などの問題で銃身などの主要部品には使用できなかった。とはいえ[[ハンドガード]]やグリップ、[[ストック>銃床]]といった末端のパーツに関しては、第一次世界大戦の時点でポリマー素材を用いた銃も登場している。

 1959年に発売された[[レミントン]]社のナイロン66[[ライフル>小銃]]は、ストックをすべてポリマー素材で構成した最初期の実用ライフルの一つである。安価で高品質な大衆用ライフルの設計を模索していたレミントン社は、大手化学メーカーのデュポン社と提携。当時研究開発されていた同社の新素材、ナイロンを用いてストックやレシーバーを一新するという賭けに出た。この新素材は見事にレミントンの要求を満たし、ナイロン66は総計100万挺を超える大きなセールスを生んだ。
 このヒットを受け、レミントン社は様々なポリマーフレーム製品を製造した。その中でも特筆すべき成功を収めたのは1963年に発売された、ライフルカートリッジ・ターゲットピストルの元祖とも言えるXP-100[[拳銃]]であろう。ポリマー素材による複雑成型によって可能となった『[[ブルパップ]]式[[ボルトアクション]]』という特異な設計のこの拳銃は、優れたバランスと精度からたちまちピストル競技界の新たな目玉商品となった。
 こうした民間銃器でのポリマー使用の成功が世界的に知られると、軍用製品においてもポリマー素材を活用しようという動きが見られ始めた。

 1970年には最初期のポリマーフレーム[[自動拳銃]]として知られる[[H&K>ヘックラー ウント コッホ]]社の[[VP70>HK VP70]]が登場したが、設計の拙さもあって商業的には成功しなかった。
 1978年にはオーストリアの[[ステアー]]社から[[AUG>ステアー AUG]][[突撃銃]]が登場。軍用ライフルとして初めて総ポリマー製レシーバーを採用しており、マガジンにも樹脂の利点を活かした半透明のものが用意された。その他にも斬新な設計を盛り込んだこの銃は、広く世界中で調達・採用された。
 そして1982年、オーストリアの[[グロック]]社から[[グロック 17]]が登場した。VP70と異なり、現場の声を生かして開発されたグロック17は、斬新ながらも合理的な設計の銃であった。グロック17の優れた資質は、ポリマー素材に懐疑的だったユーザーにも次第に受け入れられていき、それと同時にポリマーフレームも広く認知されることとなった。

 こうした初期の製品の成功を通して、90年代以降、各国各社から次々とポリマーフレームの銃が開発・生産されるようになっている。素材製造や製品製造技術の向上に伴って、[[H&K G36>HK G36]]などのように[[ハンマー]]や機関部などの従来はポリマー素材が避けられていた部品にも用いられるケースも増えた。
 一方、2010年代に入ってからは、3Dプリンタで製造可能な[[拳銃]]の設計図がインターネット上で配布され、凶悪犯罪に使用される危険性が指摘されている。(弾薬は別として)3Dプリンタさえあれば誰でも製造できてしまうという入手の容易さに加え、完全プラスチック製のため金属探知機をすり抜ける可能性がある。

**製造・欠点 [#he8dd3ab]
 素材加工や生産設備にある程度の技術力・工業力・資金力を要するものの、金属加工にくらべ大きなエネルギーを必要とせず、複雑な形状の部品を短時間にかつ大量に成型可能なので、生産性は非常に高い。
 耐候性・整備性もよく、金属と異なり熱伝導性が低いので射手に火傷や凍傷を負わせる恐れもなく、当然ながら水場でもサビを気にしないでよいなど、メリットは数多い。
 また、樹脂自体に着色して様々なカラーバリエーション(例えば砂漠迷彩のデザートイエローや訓練用の青色など)を作れるため、塗装と違って使い込むうちに色がはげることがない。

 一方、全体として材質の耐熱性や硬度では金属フレームに劣り、強度確保のために肉厚化(=重量化)しがちであるという欠点がある。グリップパネルなどを一体成形することで強度はある程度補えるが、今度はパネルを分割することが出来なくなり、ユーザーの手のサイズに合わせた配慮が難しかった。この点は[[ワルサー P99]]が、グリップのバックストラップを手のサイズに合わせて交換するという解決策を打ち出して以降、グリップパネルの分割・交換機能を搭載した製品が多数登場することになる。[[シグ P250>自動拳銃/P250]]ではインナーシャーシを取り外し、ポリマーフレームを丸ごと交換することでグリップサイズを変更する方法を採用するなど、様々な改良が各社から提案されている。
 また、ポリマーフレーム一体型の[[マウントレール]]にアタッチメントの固定ネジを占めこみすぎた場合、フレーム自体が歪み、射撃に影響する場合がある。特に材質や設計のブラッシュアップが不完全な初期生産型のポリマー製拳銃でよく起こった問題であり、現在では設計を見直したり、マウントレール自体は金属製の別パーツにすることで対応されている((なお、一般的に誤解されがちだが、ポリマーは柔軟性があるため、耐圧性などはむしろ下手な金属素材より高い傾向にある。局所的な過負荷はその限りではないという話である。))。
 カスタム派の個人ユーザーにとっては、旋盤や掘削装置で自由に加工できる金属フレームと異なり、専用の器具がないと思い通りの加工ができない点は無視できぬ問題となる。

 長い年月が経つことで急激に劣化する([[グロック17>グロック 17]]の旧世代型)、熱や紫外線に弱い([[G36>HK G36]])という可能性も指摘されているが、この点に関しては未だ決定的な結論は出ていない。そもそもポリマーと言っても実際には様々な材料が使われており、全てが画一的な性質を持つ訳ではない点は留意すべきであろう(例えば、G36などはカーボン繊維で強化されたポリマー素材を使用している)。

**有名なデマ [#r528abbf]
 グロック拳銃などの都市伝説として『ポリマーフレーム製品は金属探知器に検知されない』というものがあるが、これは真っ赤なウソである。
 ''ポリマー化されているのは『フレーム』(自動拳銃で言うところの下半分)のみ''であり、スライドやバレル、ボルトなどの高圧力・高磨耗に晒されるパーツは最初期から21世紀現在に至るまですべて金属で作られている。そのため、銃として機能する状態を保ったまま金属探知器をすり抜ける事は不可能なのだ(先述した3Dプリンタ銃のような、耐久性を度外視した完全プラ製銃を除く)。
 ただし、X線検査に限って言えば「銃としての形が分かりづらい」ということはあるらしく、グロック社などはフレームに造影剤として金属片を混入して対応している。

 こうしたアイデアはメディア作品においてはギミックとして活用され、ハリウッド映画でも『[[ダイ・ハード2>ダイ・ハード]]』などでそうした展開を見る事が出来る。
 そもそもハイジャックに限って言えば「銃本体が金属探知機を突破しても弾丸は絶対に引っかかる」という突っ込みどころがあるのだが、流石に物語が冗長になるため、この点は無視されることがほとんどである。その点、映画『ザ・シークレット・サービス(C.イーストウッド主演)』は、犯人が金属探知機をすり抜けるために手製の完全プラスチック拳銃を用意し、弾薬も金属製の装飾品に隠してクリアするなど、「非現実的」な問題に対して比較的現実的な方法をきちんと示している稀有な作品の一つである。

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