*システムウェポン / System weapon
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*システムウェポン / System weapon [#e19665bc]

 システムウェポンとは、共通のコンポーネントを流用し、様々な仕様(コンフィギュレーション)に容易に変更することを前提とした設計の武器のことである。
 銃器の分野では、ドイツの[[H&K>ヘックラー ウント コッホ]]の開発した[[G3>HK G3]]を始め、同社製の[[G36>HK G36]]や[[XM8>HK XM8]]。オーストリアの[[AUG>ステアー AUG]]など、第二次大戦後作られた多くの歩兵用ライフルが、このシステム・ウェポンとして設計された。
 システムウェポン、またはモジュラーウェポンとは、共通のコンポーネントを流用し、一つの銃火器を様々な仕様(コンフィギュレーション)に容易に変更することを可能とする設計である。
 共用可能なパーツを用いることで生産コスト・供給面での利点があるほか、操作や整備の手順を同じものに出来るため訓練のコストを下げられること、複数の銃を携行せずとも最小限の変更で近距離戦や遠距離戦に適した構成に変更可能であるなどの利点がある。

 これは、機関部など複雑な部品は設計を流用し、銃身や[[ストック]]、給弾機構などの最低限の設計変更で、[[突撃銃]]、[[カービン>騎兵銃]]、[[軽機関銃]]などのバリエーション展開を行うというものだ。操作や構造のほとんどが共通しているため、新たな銃器をカテゴリーごとに一から開発するよりも時間がかからず、兵士の教育時間も短くて済み、製造ラインも共通のものを使用できるため低コストと利点が多い。
 システム・ウェポンの構想は意外にも古く、第一次世界大戦終了後のアメリカにおいて既にその原型が見られる。1930年代、[[アメリカ海兵隊]]の予備士官であるメルヴィン・ジョンソン少尉は、当時最先端の銃火器のコンセプトに影響を受けた[[マガジン]]給弾式の銃火器の開発を始める。第二次世界大戦中、1941年にはパーツと構造に多くの共用性を持つ、[[ジョンソン1941ライフル>ジョンソン M1941自動小銃]]と[[ジョンソン1941軽機関銃>ジョンソン M1941軽機関銃]]を完成させ、アメリカ海兵隊での試験を行った。海兵隊ではこれらの銃火器を高く評価し、採用要請を行ったものの、既に相当数の[[M1ガーランド>スプリングフィールド M1]]を生産していた陸軍に反対を受けたため採用されることはなかった。
 
 [[突撃銃]]の登場後、生産性・整備性を上げるため、各パーツを他の同じ製品と同一規格を持つ部品とするモジュール化が進められていった結果、これらのパーツを個別に交換することでバレル長や[[ストック>銃床]]の有無などを切り替えるという発想は自然に生まれてきた。
 第二次世界大戦の数年後、[[ソ連>USSR]]で開発された[[AK47>USSR AK47]]やNATO各国で採用された[[FAL>FN FAL]]といった第一世代の突撃銃は、[[軽機関銃]]を兼ねたヘビーバレルの長銃身モデル(それぞれ[[RPK>USSR RPK]]、FALO)をバリエーションとして持っており、バレル以外のパーツはほとんど突撃銃モデルと共用であった。システムウェポンはこうしたモデルに影響を受け、戦場での部品の取替えをより容易にしたものと言える。
 
 第二次世界大戦後、メルヴィン・ジョンソン少尉はアーマライト社で技術コンサルタントとして雇用され、[[ユージン・ストーナー]]や[[ジェームス・サリバン]]らと共にモジュール式突撃銃[[AR10>アーマライト AR10]]の設計を行った。AR10は高度なモジュール化によりバレルと機関部を占めるアッパーレシーバーと、給弾部とトリガーグループを含むロワーレシーバーへの分割・換装が可能となっていた。
 この設計を活かし、AR10はアッパーレシーバーを換装して短銃身を用いる[[カービン>騎兵銃]]モデルや、ロワーレシーバーを換装することで[[ベルト給弾>弾帯]]を行う軽機関銃モデルへと変更する事が可能となった。
 後の[[コルト]]社に権利が移った小口径モデルAR15が[[M16>コルト AR15]]として米軍に採用されると、コルトは同様の様々なカービンモジュールや軽機関銃モジュールを軍へと提案した。一方、AR15の設計を行ったユージン・ストーナーが新たに開発した[[ストーナー63>CG M63]]はより優れたモジュール性を備えており、アメリカ海軍[[SEAL]]sが使用したことでその有用性は大いに実証された。

 また、[[ユージン・ストーナー]]が開発した[[M63>CG M63]]では、より進んだシステムウェポンとして、単一の銃器を部品交換だけで各種銃器に変更する、という概念が提示された。しかし、M63は、突撃銃などの歩兵用ライフルとして使用した場合は銃そのものが重くなり、機関銃として使用した場合には強度が不足するといった「帯に短し、たすきに長し」の銃となってしまった。
 こうした成果を受け、世界各国でもモジュール式のシステム・ウェポンの開発が進んで行く。特に[[H&K>ヘックラー ウント コッホ]]社では自社製品[[G3>HK G3]]や[[G36>HK G36]]のバリエーションの大半をシステム・ウェポンとして共用可能な設計とした。同様の試みはステアー社の[[AUG>ステアー AUG]]などでも実装された。
 だが一方で時代を経るにつれ、専門の[[狙撃銃]]や軽機関銃もまた生産技術や設計の進歩によりその性能を大きく向上しており、突撃銃の設計の流用でこれら専門の銃火器の性能に追いつくことは難しくなりつつあった。
 2000年代には米陸軍主導の大規模なシステムウェポン採用計画である[[XM8>HK XM8]]計画が行われたが、やはり当時既に採用されていた個々の専門モデルの性能を上回ることは出来ず、計画は中止されている。

 とはいえ、ストーナータイプのいわゆる"変身銃"はその後、変更可能な火器のカテゴリーが絞られ、AUGやG36などの、モジュール構造のライフルで限定的に実現され、[[SCAR>FN SCAR]]や[[ACR>マグプル MASADA]]といった、より洗練された最新ライフルにも継承されている。
 
 なお、モジュール構造のシステム・ウェポンは、部品交換で各種小火器に変更可能といっても、一兵士が臨機応変にその場で組替えて、即戦闘可能。といったものでは全くない。部品交換のたび、作動のチェックなどの各調整作業が必須となるためだ。
 しかし現在でも、とりわけ作戦行動中は十分な部品の供給を受けられず、機動力を重視した作戦を多く遂行する特殊部隊においては未だにその要求は根強い。特にアメリカ軍SOCOM傘下の各種特殊部隊では現在もAR15や[[SCAR>FN SCAR]]をベースにした様々なバリエーションモデルをパーツ交換によって運用している。
 21世紀に入ると[[5.56×45mm弾>5.56mm x45弾]]の性能面での限界が認知されたことで、使用弾薬の変更さえ可能としたシステムウェポンへの要求はますます高まり、様々なモデルが開発・運用されている。警察・法執行機関においても[[9×19mm弾>9mmパラベラム弾]]や[[.40S&W弾>.40SW弾]]、[[.45ACP弾]]といった複数種の弾薬を用いることが一般的となり、[[自動拳銃]]においてもそのような使用弾薬を変更可能なモデルも増えつつある。
 [[MASADA>マグプル MASADA]]や[[XCR>突撃銃/ロビンソン XCR]]といった新しい設計のシステム・ウェポンの登場にも影響を受け、現在では民間製品・軍用製品ともにモジュール式のシステム・ウェポンは市場においては一般的なものとなりつつある。 


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