HAS フリーガーファウスト / Fliegerfaust 【地対空ロケット砲】 †
フリーガーファウストは、第二次世界大戦末期にドイツで開発された、多砲身無誘導の個人携行型地対空ロケット砲である。直訳すると、「航空機拳骨」或いは「パイロット拳骨」となるが、この場合「飛行機叩き」といったニュアンスとなる。ルフトファウスト(航空拳骨)とも呼ばれた。 中央の1門を残りの8門でぐるりと囲む、計9門のロケット発射管を束ねた外観が特徴で、プレス鋼板を用い、特殊な資材は一切使われなかった。発射筒前後にはグリップと肩当てが設えられ、本体上部に簡単な照準装置が設けられた。肩撃ち式で、有効射程は500mほど。0.2秒間隔で最初に4発、次に5発の2斉射を行い、9発のロケット弾からなる直径50mほどの散布界を形成する仕組みだった。 当時、ドイツ軍は制空権をほぼ完全に喪失し、地上部隊は低空侵入してくる対地攻撃機からの一方的な攻撃にさらされていた。日中の移動はほとんどままならなくなり、前線部隊はおろか後方の補給・輸送部隊も壊滅的で、生産されたばかりの兵器が、受領されて戦闘に参加する以前に破壊されることも稀ではなくなった。 陸軍兵器局から要請を受けたヒューゴ・シュナイダー社(HAS AG)は、試作型の「ルフトファウストA」をはじめとして、弾薬や発射管の数の異なる、さまざまな設計の試作品を製作してテストした。複数の発射管を束ね、複数のロケット弾を斉射するというコンセプトは決まっていたものの、効果的な斉射数や使用弾薬については見極めが必要だった。 ところで、完成したフリーガーファウストは、敵航空機の撃墜を目的とした兵器ではなかった。撃墜はあわよくば、といった程度のもので、あくまで、低空侵入してくる敵攻撃機に脅威を与え攻撃進路に入るのを妨害し、低空攻撃をあきらめさせることを最終的な目的とした防御兵器だった。採用された弾薬も、地上からの対空攻撃を敵に知らしめるため発光する、曳光弾であった。 フリーガーファウストは、ドイツ全軍から10000挺がオーダーされていたが、ごく限られた数が前線に送られてテストされたのみで、大量生産には至らなかった。このころには、連合軍からの爆撃により、そのための設備やインフラがほとんど破壊されていたためだ。ドイツ軍は、フリーガーファウストを制式採用することなく、完成の同年5月に敗戦を迎えている。前線でテストされたであろうフリーガーファウストの戦果は不明である。 なお、パンツァーファウストに対するパンツァーファウスト3同様、現代のドイツ連邦軍では対空用個人携行火器にこの火器の名前を付ける伝統があり、「フリーガーファウスト1」がFIM-43 レッドアイ、「フリーガーファウスト2」がFIM-92 スティンガーとなっている。
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